7-143 狂い歪んだ若者たち
「鳥の川を守る。」
「蔦山。」
「いや、その前に。」
「迷いの森は、避けたい。」
「榛の木と、大木から狙う。」
見合い、頷く。
山裾の地には、戦好きが多い。玉置、三鶴、北山、東山、豊田、川北、飯田、武田。
三鶴は草谷や稲田など、他の村に睨まれ動けない。飯田は茅野に、武田は飯野に睨まれ動けない。北山、東山、川北はボロボロで、戦どころじゃナイ。
玉置は、宝玉社が抑えている。
豊田の村は、喜んで出るだろう。南の兵を討てば、力を示せる。そう考える。
豊井、豊野、添野。どこも穏やかな人が、長になった。とはいえ、豊田の村外れに、血の気の多いのが燻っている。
「豊田の国長は、添野の狩頭だったな。」
「あぁ。今でも狩り人、やってるよ。」
「良いのかよ。」
「良村の長だって、狩り人だぜ。」
「確かに。」
豊田の国長になった、添野のヨノ。元、添野の狩頭。小柄で細いが、罠を張るのが上手い。添野の村長の推薦で、豊田の国長に就任した。
添野。前触れもなく豊田に攻められ、従わされた。狩り人は山に、釣り人は川に出ていて、耕す人しか居なかったのだ。知らせを受けて戻ったが、遅かった。
話し合いを申し入れたが断られ、同じ思いをした豊井、豊野と話し合う。その時、知った。三村とも長が呼び出され、村を離れていたと。
長たちは組み、豊田と張り合う事にした。
豊井の娘ムメが、村の子ハルと共に、村を飛び出した。ムメを後添えに望み、断られても諦めなかった豊田の長。釜戸社に山狩りの許しを求めた。
谷河の狩り人に助けられた子らは、訴えた。『釜戸社に、助けてほしい』と。
釜戸の裁きにより罰を受け、長を退いた。次の長も、その次の長も酷かった。
あの冬の戦で、多くの人が死んだ。残された人たちは思う。戦好きな長を変えよう。強くて、穏やかな人を長に。
「豊田の長。前の長の、末っ子だったな。」
「穏やかで、争いを好まない。『四村で話し合い、国長を支えよう』と、言い出した。」
「豊野の長も穏やかで、争いを好まない。」
「添野、豊井、豊野が組み、豊田を抑えようと言い出した。あの長の子か?」
「いいや。前の長の娘と契った、添野の狩り人だ。」
「豊井と言えば、あの長。」
「前の狩頭の末っ子だ。穏やかで、争いを好まない。」
「『三鶴のように、四つの村が対対に』と言って、纏めた。」
「添野の長も穏やかで、争いを好まない。釣りでアチコチ、繋がっている。」
「豊田の末っ子。悪しいの、抑えられると思うか?」
豊田だけでは無い。添野、豊井、豊野にも居る。戦で狂わされ、歪んでしまった若いのが。
幾ら長が穏やかでも、争いを望まなくても、止められない勢いが有る。
南から攻めて来たのを、退ける。
殺すのは、南の兵だけ。山裾の地で争うんじゃ無い。この地を守るために、戦うんだ。そう考え、動くだろう。
「山守の村に、託すか。」
影の爆弾発言に、一同ビックリ。