1-5 狂おしいほど愛しい才
カーには収集の才がある。呪われた才と蔑まれ、忌み嫌われる。死んだ祖母もそうだった。
隠れるように生きていた。美しく、優しく、賢い化け王。城とは名ばかりの塔に暮らす、孤独な女王。ある日、さみしそうな目で花を愛でていた祖母に、運命の女神が微笑んだ。
一目惚れだった。引き寄せられるように近づく。抱擁の後、口づけを交わし、離れられなくなった。燃えるような恋。
曽祖父は、支配の才を持つ大王。祖父は、治癒の才がある第二王子。女王とはいえ、忌み嫌われる収集の才を持つ娘など、受け入れられない。ありえない。
当然のように周囲は反対した。けれど、若い二人は負けなかった。周囲の反対を押し切り、結婚する。
愛し、愛され、満たされる。誰から見ても、幸福な家族。大王が倒れ、皇太子の側妃が、支配の才を受け継ぐ王子を産んだ。けれど、愛し合う二人の暮らしは、変わらない。
才は受け継がれるもの。血縁から、一番早く生まれる子が、その才を受け継ぐ。選ぶことは出来ない。
祖母から収集の才を受け継いだカー。両親、兄姉。皆、冷たかった。
けれど、祖父だけは優しく、包み込むように接してくれた。愛する妻から託された孫。目に入れても痛くない、そんな溺愛ぶりだった。
争いを好む大王は、祖父を縛り、利用し続けた。治癒の才を独占したのだ。争いを好まない祖父は決断を下す。
治癒の才は、誰にも知られることなく、カーが継承した。
いつまで経っても、治癒の才を持つ子が生まれない。そのことに、王家は焦った。祖母一筋だった祖父に、落胤がいるとは考えられない。
誰も知らなかった。才は譲渡できるものだ、ということを。収集の才とはそういう才だ、ということを。
カーは、孤独だった。
忌み嫌われる才を持っているとはいえ、第五王子。母は、虐げた。即位後も続いた。それでも耐えた。しかし、もう耐えられない。
唯一、可愛がってくれた祖父は、祖母の隣で眠っている。
第一側妃は自殺した。腹に据えかねたカーが、その才を奪ったのだ。計画的に、そっと。
カーには二つ上の兄がいた。選ばれし才の一つ、水の才を持っていた。だから、なのだろうか。我が儘で、やりたい放題。母と共に弟を虐げ、楽しんでいた。だから、奪ってやった。
発狂した。才を失った側妃など、捨てられる。切り札だった第四王子から、水の才が消えた。絶望したのか、飛び降りた。王城の窓から。兄と共に。
毒母の趣味は加虐。虐げられたのは、カーだけではない。不死の才を持つエン、不老の才を持つルー。共通点は他にもあった。嫌悪感を抱いていたのだ。王族は、暴食を美徳とする。
不死の才。死なせない、というものではない。老いて死ぬまでは、死なない。そういう才だ。たとえ傷を負っても、病に倒れても死ねない。だから、最前線に送られる。
戦いに駆り出されるたび、負傷した。何度も、何度も、何度も。くりかえし、くりかえし、戦場へ。
回復するわけではない。激痛に襲われて、のた打ち回る。気絶して倒れても、放置される。後遺症が残る。
エンは言った。「呪いだ」と。