7-142 指先一つで、パチリ
な、ぜだ。なぜ死ねない。舟で川に入って、上がって、それで。・・・・・・死んだ、のに。
食われた? 吸い取られた。シュルシュルと何かが、体から離れた。それで、それで。そうだ。集められて固まって、潰されて。は、き、出された。
体が重い。痛い苦しい、寒い怖い。止めろ、来るな。来ないでくれ。また食われる。嚙みつかれて、引き千切られる。もう嫌だ、殺してくれ。死なせてくれよ。
あぁぁ、重い。痛い苦しい、寒い怖い。頼むから来ないでくれ、止めてくれ。食われる、食い破られる。なぜ死なない、殺されても死ねない。
神様、居るなら助けてくれよ。耶万に攻められて、滅びかけた。ヤツら散蒔いたんだ、毒を。水が飲めなくなった。バタバタ死んだ、殺された。
オレはな、戦に出たくなかった。逃げられなかった。駆り出され、放り込まれたんだ。・・・・・・帰りたい。
もう許してくれ、死なせてくれ。頼む。頼むから、死なせてくれよ。
「フゥゥ、力が漲る。」
タヤの体に、闇が流れ込む。ドクッ、ドクッと脈打つ。
「ドンドン送り込まれるねぇ。」
念珠もウットリ。
妖怪の墓場から続く横穴が、ドバッと塞がれた。掘り進める時、通ったっきり。出入りする事ナイし、無くても困らない。だから気にしない。
チョコマカしていた蜘蛛の子も、サクッと片づけた。少し逃がしてしまったケド、言の葉も使えないチビなんか、要らない。
耶万はイイね。あれだけ居た隠が、妖怪になった。狐に焼かれて減ったけど、また増えた。次から次へと、餌が運ばれてくる。
ククク。闇が渦巻いている。
苦しめ! 悶えろ! タヤを傷つけたんだ。死んだくらいで、許されると思うな。
・・・・・・あっソレ、親とか? まっ、他のに同じ事したんだし、当たり前だよな。
もっと苦しめ、もっと悶えろ。もっともっと追い詰めて、もっともっと搾り取る。人なんてイキモノ、滅んでしまえ。
クク、ククク。
「曲川、暴れ川からは来ない。」
天霧山の雲。
「南から送られた兵は残らず、闇に消えた。」
心消の影。
「浜木綿の川から入った舟、早稲が止めた。」
月見山の桧。
「沼田から早稲の間に潜み、四つ仕留めた。残り二つ。」
天立山の月。
「闇に飲まれたが、ドコ行った?」
星海山の梟。
天霧山、弓の村。五つの忍が集まり、持ち帰ったアレコレを話し合う。
「南に潜った忍び。残らず戻ったが、起きない。」
「ウチも。」
「ウチも。」
「ウチもだ。」
「清めの力を持つのに、触れてもらえ。起きる。」
月、影、桧、梟、ビックリ。
「チョンと一突き。それで、起きる。」
糸遊の祝は、遠くを見る。沢出の祝は先読。見空の祝は、心の闇を操る。水月の祝は、水の流れを読む。矢弦の祝は、人の心を操る。
揃って、清めの力は無い。
だから試しに、継ぐ子に頼んだ。『甘い実あげるから、ツンツンして』と。ツンで起きたよ、寝てたのが。