7-141 名コンビ
耶万の人は戦を繰り返し、奪い尽くし、国を広げ続ける。
マノは闇を纏い、禍を撒き散らしていた。しかし、それは人が望むから。耶万神をお守りするため、闇に強いマノが動いたダケ。
「朱さま、永良部さま、斎さま。ありがとうございます。」
海布、とっても嬉しそう。
「耶万で、事を為すのだろうか。」
斎がポツリ。
「いいえ、隠の世から。御許し、得ております。」
人の世から清めるには、強い力が要る。使わしめには難しい。だから、隠の世から清める。耶万の真下へは行けないが、ザッと囲う事は出来るのだ。
一山の妖怪の墓場には、耶万へ続く道がある。タヤと念珠が掘り進めた、細い横穴が。穴は塞いだが、奥には大貝神の使わしめ、土の糸が。
ギィィ。ギィィ。ギィィ。
「・・・・・・オカシイ。」
なぜ、こんなに。川の流れに逆らって進んでいるのに、どう考えても速すぎる。まるで何かに、引っ張られているようだ。
「人です。布を振って、何か叫んでいます。」
水手の一人が、指を指す。
「舟を寄せろ。」
「はいっ。」
ヒュゥ、ストッ。ボッ。ヒュゥ、ストッ。ヒュゥ、ストッ。ボッ、バチバチ。ヒュゥ、ストッ。ボッ。ヒュゥ、ストッ。ボッ、バチバチ。ヒュゥ、ストッ。ヒュゥ、ストッ。ボッ。ヒュゥ、ストッ。ヒュゥ、ストッ。
矢の雨が降った。中には、火の矢も。砕いた竹を詰めた袋と、燃える手火が投げ込まれ、燃え広がる。
「乗り込めぇぇぇぇぇぇ。」
「ヲォォォォォォ!」
風見神と早稲神は、急ぎ雲井社へ。その前に、社の司に伝えた。迷いの森に入るまでに、南の兵を止めるように。
迷いの森は、ずっと北。水引の谷を越えた舟が、こちらへ向かっている。浅木に仕掛けず、通り過ぎる。だから迷いの森なんだ。
カツの妻、セイは直ぐ動いた。
グダグダ言うのを蹴り、怒鳴りつけた。『死にたくなければ、動け』と。セイは乱雲山に居た。だから知っている。見えなくても、守られていると。
「弓を持て! 矢を番えろ! 舟は大きい。川向こうを狙え。射れば当たる。」
毒を試すには良い。女たちを鍛え、弓を扱えるようにした。兵も育った、備えもある。
「サッサと動け。ブッ刺すぞ!」
ギロリと睨みつけ、ニヤリ。
「さぁ、みんな。セイの言う通りに。」
「ヒトさんが言うなら。」
早稲の人たらし、ニコッ。
「ケッ。」
奪えた舟は四隻、逃がした舟は二隻。
「これだけ奪えば、良いだろう。」
セイに言われ、ヒトが黙って頷いた。