7-138 生き証人
鎮の西国は遠いが、真中の七国は隣。
耶万へ行くには二つ。津久間に入り、陸を行く。飛国から川を下って、海から行く。
津久間を通るのは、とても難しい。許し無く入れば、必ず戦になる。海から行くのも難しい、人が足りないし、危ない。かといって、陸から行くのは・・・・・・。
「動ける兵は。」
倭国の、大王が問う。
「揃いました。」
大臣が平伏し、答える。
「では、送れ。」
「ハッ。」
飛国には、話を通してある。耶万を滅ぼさなければ、真中の七国が滅ぶ。七人の大王が集まり、朝まで話し合った。そして決まった。兵を、海から送ると。
「・・・・・・オカシイ。」
水手が呟く。
「どうした。」
「引き返しましょう。嫌な感じが、海から。」
「戻れるか! 進め、進めぇぇ。」
グワンと波が押し寄せ、舟が大きく揺れた。男たちは慌てて、空を見上げる。
「なっ、何で嵐の中に。」
ドッシャァァン。ギィィィィィ。メキメキ、バリッ。
「ワァァ!」
ボチャン。ブクブクブクゥゥゥ。
「グハッ!」
ボチャン。ブクブクブクゥゥゥ。
「たっ!」
ボチャン。ブクブクブクゥゥゥ。
海に放り出された、兵たちは沈む。見えない何かに手を引かれ、抱きしめられ、足を掴まれて。浮き上がれず、踠きながら海の底へ。
「海神。川を上った舟が、戻ります。」
「どの川から、幾ら?」
「大磯川と椎の川から、三つづつ。戻るのは舟だけデス。人は残らず、食われました。」
「まぁ、そうなるか。」
どちらも、大貝山の統べる地に入って直ぐ。
晴れていた空が闇色に染まり、生暖かい風が吹く。逃げる事も叫ぶ事も出来ず、カッと目を見開いた。
ドロッとした闇が覆い被さり、吸い取られる。兵たちは思った。『生きて戻れない』『誰も助からない』と。
痛いイタイ痛い。痛いイタイよ、痛い。いっそ殺して! 骨と皮になった体を捩り、身悶え、死を希う。
ドサドサ吐き出され、積み上げられた。
重い苦しい、潰される。あちらでバキッ。こちらでボキッ。バキボキ、グシャッと、折れ砕ける音が。
ペッと、舟の外へ吐き出された。
主を失った舟は、グワングワンと流される。水の中から伸びた手が、川の流れにヒョイと乗せ、送る。二つ目の舟には、まだ生きていた兵を一人。ポンと投げ込み、手を振った。
全滅させてはイケナイ。国へ送り、伝えさせる。何が起き、どうなったのかを。
「生き残りを乗せた舟だけ、壊さず戻そう。残りは沈めて、魚の家に。」
「はい。」
スイスイ現場へ急ぐ甲を見送り、海神。ニコッ。