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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
釜戸社編
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4-3 おやつ、大好き

「そうですか。」


確かに。ここなら、何かあっても、逃がせる。それにしても、顔の色が悪い。社からここまで、走って来たのか。


釣り長は知らない。目の前にいるのが、幼子に叱られた、忘れん坊だということを。


「コウとツウ、二人の子を預かり、守ります。」


よ、良かったぁ。シロは胸を撫で下ろす。祝の決めたこと。従わない者は、いない。とはいえ、もしも、ということが、あるかもしれない。


「よろしく頼みます。」


そこまで力強く言わなくても。いや、待てよ。走って伝えに来た、ということは、その二人の子には、何かあるのか。


稲田といえば、三鶴に媚を売る村長がいたな。それで逃げた、となると。追手がかかる。狙われている。三鶴には、渡せない。渡すわけにはいかない。なぜか。


少し前、木菟が通った。霧雲山、乱雲山。どちらにも、強い力を持つ祝が。木菟が動いた。ということは、山守には渡せない。気づかせない、ということ。ハッ、そうか!


コウかツウ、どちらかに強く、大きな力がある。もしくは、眠っている。それを野比の祝が知り、雲井の祝へ。育つまで託した。


子の足では、霧雲山へは行けない。それで、木菟を遣わしたのだ。もし、知らなければ。釜戸社から日吉社へ、となるだろう。子のことを考えれば、あの山は良い。いろいろ選べるから。


そうしないのは、日吉山に何かが起こる、ということ。その何かが、死なせてしまうのか。




「シロさま、少し休まれては。」


「いいえ、戻ります。」


「そうですか。では、こちらを。」


「これは。」


「蒸した芋です。疲れた時には、甘いモノが欲しくなりますから。」


あっ、泣く。泣いちゃう。でも、泣かない!


「ありがとう。頂きます。」




「おっそぉぉいっ! まっ、いいけど。」


エイは湯気で蒸され、甘みを増した菜の葉を食べていた。とても幸せそうに。そして、ふと考える。


タツという子は、もう二度と食べられない。怖い思いをして、痛い思いをして。再び、父や母の温もりに包まれることもない。


人はいつか、必ず死ぬ。病ならまだしも、殺されたなら。確か、六つ。たった六つ。ヨシは、変わり果てたタツを、泣き叫びながら抱きしめた。そう、聞いた。



「許せない! 早稲の人。」


もし、私が・・・・・・。父、叔母、従兄も泣くだろう。私を産んで死んだ母は、化けて出るかもしれない。そして、もし、目の前に。罪を犯した、その人がいたら。


「同じ目にあわせてやる。」


叫んで、斧で滅多打ち。それとも、縛って切り付けて、そのままにする。考えれば、考えるほど、思う。火口へドボンでは、軽いのでは?



「でも、人は殺さないって、決まりだし。」


人は殺さない、釜戸山の決まり。だから火口へドボンが、一番重い。


口に布をかませ、頭の後ろで括る。両手は後ろで縛り、両足には、歩けるくらいに縄をかける。で、飛び込ませる。逃がさず、押さず、飛び込ませる。



「うぅ。」


いくら祝でも、決まりは変えられない。そもそも今まで、惨いことをする人なんて、一人もいなかった。


「そんなの、人のすることじゃない。」


そう、そんなことを考えるようでは、人とは言えない。人ではない。ヒトデナシだ!


「むぅ。」


ため息にもならない。祝とはいえ、たった五年しか生きていない。どんなに考えても、わからなかった。どう育てば、どう生きれば、そんなに惨いことが出来るんだろう。


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