7-132 土は、お父さんです
根の国の闇は、人の世に持ち出せない。しかし闇から生まれた妖怪であれば、その身に纏う事が出来る。ほんの少しダケ。
タヤは闇から生まれた蛇の妖怪、念珠と暮らしている。そっと頼めば、きっと。
「根の国の闇に、耶万の闇を?」
「はい。」
「・・・・・・そうか。」
「妖怪の墓場へ行き、確かめて参ります。」
大貝山に在る、妖怪の墓場。守り隠、ゴウ。守りたい人を質に取られ、戦場へ放り込まれた。伝えられたのは、たった一言。
『生きて帰る』
抱きしめるどころか、触れる事すら出来なかった。
死んで堪るか。何が何でも、生き残ってやる。
『殺せ』だの『奪え』だの、『死んでも戦え』だの、人を何だと思っている。ふざけるな! オレは帰る。生きて帰る。強い思いを胸に、戦い続けた。
お偉方が聞けば、鼻で笑うだろうよ。
戦で命を落とし、戻ったよ。隠になってね。
タヤは穢され、子を孕んでいた。誰の子か・・・・・・わからない。見守るしか無い。他に、何が出来る。
許せなかった。タヤだけじゃない、他にも。だから一匹残らず、取り殺した。
隠で居られなくなっても、妖怪に堕ちても構わない。奪って、奪って、根絶やしにする! 気が付くと、頭に角が二本。ニョキッと生えていた。
産気付き、命懸けで産んだ嬰児。名を、ゴウ。
オレの名を付け、笑いながら言ったんだ。『ゴウと、私の子です』と。その時、あたたかい何かが、オレを包んだ。
見守ったよ。タヤが病で死ぬまで、ずっと見守った。
女一人で、子を育てるのは難しい。それなのに、タヤは育て上げた。狩り人になった息子は、大倉の狩頭の娘と契り、幸せに暮らした。
「ゴウ、変わり無いか。」
「はい、土さま。」
角、伸びた? 『鬼の角は、強さの源』って、聞いたような。聞かなかったような。
「ゴウ。タヤを、覚えて居るか。」
「はい。愛妻は、生き続けています。ここに。」
胸に手を当て、ニコッ。
「・・・・・・そうか。」
そうだったぁぁ! ゴウの思い人も、タヤだったよぉぉ。
違う、違います、違うんです。って、気付いてるね。なぜ来たのか、何を確かめたいのか。
「土さま。」
「ハイッ。」
声、裏返らなかったよね?
「御覧に、なりますか。」
「良いのか。いや、どこだ。」
わぁぁ。コレ、言われなきゃ分かんないヨ。上手く隠してるなぁ。どう見ても蛇穴って、ん?
カサッ、チョコマカ。キュル、キュルルン。
「そうか、そうか。」
良く働いた、子蜘蛛たち。って、少ない。ブリッと放ったよ。残りは?
祝だったタヤは妖怪に堕ちた。恨み怨んで憎しみを抱き、戻れなくなったのだ。