7-130 逃亡計画
フラッ、フラフラ。バタリ。
「オイ、シッカリしろ。目を開けろ。」
ペチペチ、ペチペチペチ。
「・・・・・・うぅぅ。」
社を包んでいた、何かが揺れた。そして消えた。ジワジワ這うように、気持ちの悪い『なにか』が、ジットリと。
御隠れ遊ばしたのでは無い。けれど、そのうち。
「逃げよう。」
眴で伝える、継ぐ子たち。
「日が暮れるまでに、整える。」
素早く、パチリ。
「気付かれるな。」
目を伏せ、パチッ。
耶万社の隣には、継ぐ子が暮らす家がある。みんな親無し。
男も女も共に。大人になったら、戦か何かで。追い出されれば野垂れ死に。だから黙って従い、思い描く。
父さん母さん兄さん、姉さん弟妹も、みんな幸せに暮らしている。お腹いっぱい食べて、あったかい家でグッスリ眠れるんだ。
お日様が出ている間は、田や畑でイロイロ育てる。それから魚を釣ったり、山の幸を探したり。狩りを教えてもらったり。
楽しい事をイロイロ、いっぱい考えながら、冷たい寝床で涙を流す。
「耶万は終わる。アチコチに、人を送り過ぎた。」
継ぐ子、アコ。
「逃げよう。あの男は、きっと見捨てる。」
継ぐ子、ダイ。
「逃げるのは良い。けど、どこへ。」
継ぐ子、ザク。
「豊かで強い村か国。少し離れてるけど、大倉。」
継ぐ子、リキ。
「大稲も良いね。」
継ぐ子、ヤヤ。
横になって目を閉じれば、眠った事になる。生き残るために考え出された、継ぐ子の決まり。
起き上がり、外へ出ても止めない。眠っているから。聞こえる声で話しても、何も言わない。眠っているから。
「戦い慣れてるなら風見、早稲だけど。」
「強いけど遠すぎる。辿り着く前に、死んじゃうよ。」
「南は見つかるし。目指すなら、北だね。」
「山を越えて、追っ手が来なければ、分かれよう。」
目を閉じたまま話し合う。大人は誰も来ないし、近寄らない。継ぐ子はガリガリ。『抱き心地が悪い』とかで、見向きもされない。
「オレ、良那に言うよ。」
「生きて戻れよ。」
「アコ。生きてるかな・・・・・・。」
「生きてる。タクが恐れて、外に出したんだ。」
「うん、そうだ。きっと生きてる。」
継ぐ子に混じって、耶万の子も。年はバラバラ。逃げる時、親から託された。行き倒れるか、獣に食われるか。攫われて死ぬかも。そう伝えたのに、『頼む』と。
「夜が明けるまでに、山に入るんだ。」
「まだ誰も追って来ない。けどな、気を引き締めて。」
「解ってる。」
「ヨシ、行こう。」
耶万の北、一山までは皆で。山を越えれば二手に分かれ、大倉と大稲を目指す。