7-129 魂の行方
「あ・・・・・・れ?」
何でオレ、熊に食われてんの。
フラァァ。ユラユラ、ポワァン。
「あれ? 浮いてる。食い散らかされてるよ、オレ。」
フラフラ、ユラユラ。ポワポワァァン。
「わぁ、スッゲェ。飛んでる。」
オレ、死んだんだ。魂が抜けて、大石に戻るんだ。
ごめん、助けられなかった。ごめん、救い出せなかった。守れなかったのに、助けられなくて。守れなかったのに、救い出せなくて。
・・・・・・ハァ。
痛いよ、まだ痛い。死んだのに痛いんだ。熊にガブッてさ、食いつかれて。なかなか死ねなかったんだ。
思えばオレ、いろんな人を貶めて騙して、見殺しにした。だから食われたんだ、熊に。
そうだよな。オレの所為で、幾ら死んだ。オレの所為で、幾ら堕ちた。オレの所為で、幾ら殺された。オレは幾ら殺して、幾ら死なせた。
「いてぇ。」
すんなり死ねるワケが無い。苦しみ踠いて、転げまわりながら死ぬ。死んだけど。
「・・・・・・流されてる。」
痛くて寝てた。ココ、どこだ?
「耶万に残る兵は少ない。多くの兵が、北へ送られた。」
鎮の西国から一足先に、耶万に入った狩頭。
「兵が戻る前に、攻め落とす。」
耶万の兵に、妻子を嬲り殺された。
「ヲォォォ!」
集まった兵の多くは、狩頭と同じ。大切な人を穢され、失っている。
海神は、海を御閉じ遊ばした。とはいえ、生き物は行き来できる。
いつもなら奪えるのに。闇を伸ばし、舟を沈める。軽く百くらいカナ? 魂を抜いて取り込む。フフフ。
まぁ良い。耶万でも奪える、取り揃う。
あぁ美味しい。望みを絶たれ、闇に染まった魂。光を失い、闇に魅せられた魂。見るもの全てが歪み、堕ちてゆく。
さぁ、この手の中へ。さぁ、おいで。
願いを、望みを叶えよう。貪り欲しがる全てが、ここに在る。恐れるな迷うな、振り向くな。真っ直ぐ堕ちろ。
「頭、オカシイと思いませんか。」
見張りの男が言った。山育ちで、遠くが良く見える。
「何がオカシイ。」
「静かすぎます。幾ら人が少なくても、煮炊きする。なのに煙が。」
ケッ!
カンが鋭いのは嫌いだよ。サッサと攻めて来い、足りないのさ。妖怪が神を食らうにはね、多くの闇が要る。
「来い! 我の血となり、肉となれ。」
穏やかな海の上に、黒い靄が這いだした。蛇のように近づき、口を大きく開く。そして・・・・・・。
「なっ、何だ。」
「何も見えない。」
舟の上は大騒ぎ。しかし直ぐ、静かになった。闇を抜き取られ、魂を食われ、代りに植え付けられた。守りたい全てを奪われた、という嘘が。
男たちの目から、光が消える。
湧き出る闇も吸い取られ、妖怪化した。のそのそフラフラ立ち上がり、陸へ。そのまま攻め込み、血の雨を降らせる。