7-126 御願い
「助けて。」
「痛いよぉ。」
「死にたくない。」
「苦しいよぉ。」
「一人にしないで・・・・・・。」
国つ神は、人の思いから生まれる。人に求められ、生まれる。八百万の神の一柱、耶万神は社持ち。
耶万の真ん中に御坐す。明けても暮れても、人の思いが流れ込む。ドバァッと、滝のように。
「・・・・・・ウッ。」
濃く深い闇が、ジワジワと押し寄せる。
「あっ。」
闇に蝕まれ、黒い痣が増えてゆく。
望まれるまま、バンバン出した。ジャンジャン使われ、耶万は大国に。
多くの命が奪われ、多くの涙が流れた。散蒔かれた禍は渦を巻き、この身を蝕む。
大貝神は仰った。耶万から溢れた闇には、殺された祝が関わっていると。
死んでも残った祝の力を疎み、耶万に潜む闇を食らって、力を付けたのだ。
「マノ、離れなさい。放つから、隠の世へ。」
「嫌です。私は使わしめ。耶万神が御隠れ遊ばす、その時まで。何が起こっても、どんな事が有っても、御側を離れません。」
マノは隠。闇堕ちしても隠は隠。戻れる、生きられる。肩身の狭い思いは、するだろう。それでも耐えてほしい。
蛇の隠は多い。はじまりの隠神も蛇。放たれた使わしめなら、保ち隠に。他の神に仕えたり、他の隠とノビノビ暮らす事だって出来るだろう。
望まれなくなったり、忘れられたりすれば、消えて無くなる。国つ神から禍つ神へ。中つ国から根の国へ。
しかし私は、闇に堕ちる。中つ国で、妖怪となる。
「マノ、幸せに。穏やかな時を生き、幸せに。」
「嫌です。嫌なんです。神じゃ無くても、妖怪でも何でも構いません。」
黒蛇の隠、マノ。闇を纏い寝食を忘れ、所構わず禍を撒き散らしていた。そんな時『ウチにおいで』と、耶万神に声を掛けられる。
表向きは善く見せかけて、心の内では悪い考えを持つ。そんな蛇が受け入れられたのだ。耶万神を尊敬し、使わしめである事に誇りを持っている。
「そうは言ってもね、マノ。私は神で無くなる。妖怪に堕ちるのだよ。」
「それでも、それでも御側に置いてください。」
「放つから、大貝社へ行きなさい。他の神に仕えられるよう、御願いしてある。だからっ、マノ?」
蝕まれ、削がれ続ける御力を振り絞り、言の葉を紡いでくださった。解っている。それでも、マノは拒んだ。拒んで、拒んで、悟る。受け入れられないと。
耶万神にガバッと抱きつき、声を上げて泣いた。オンオン泣いて、叫んだ。『嫌です! 置いて行かないで』と。
「マノ! 離れなさい。いけない、マノ。」
「嫌です嫌です、嫌なんですぅぅ。」
ブンブン首を振り、グルグル巻きつく。
マノの体が、闇に蝕まれてゆく。ポツッ、ポツッと黒い痣が。マノの黒い体に、どす黒い痣が増えてゆく。