7-125 深まる闇
「何なの、あの力。」
耶万に、生きた祝は居ない。アレは清めと守りの力。祝の力を二つも、どうやって手に入れた。
「どうする、タヤ。」
蛇の妖怪、念珠。タヤを心から慕っている。
殺された耶万の祝、タヤ。強い清めの力を生まれ持ち、多くの人を救い、寄り添って生きていた。なのに、なのに、なのに。
戦を仕掛け、奪い続ける長を諭し、穢された。
初めは耶万の長。続けて臣や、社の男たち。痛い苦しい、助けて。止めて嫌、誰か助けて!
なぜ、誰も止めないの。なぜ誰も来ないの。なぜ誰も、助けてくれないの。なぜ、なぜ、なぜ。
どす黒いモノが心を満たし、魂に刻み込む。生け贄なんだ。貢物なんだと。
誰も私を、助けない。誰も私を、救わない。誰も、一人も。
私は人として、扱われない。私は人じゃ無い。私はモノ。モノだから、どんな扱いを受けても。モノだから、こんな扱いを。
モノなの・・・・・・私。
耶万のため、清め続けた。多くの人を守ってきた。禍を祓い、闇を祓い、神に仕えて生きてきた。
あれ? 私なぜ、そんなコトしたの。求められたから。あれ? 私なぜ、応えたの。求められたから。
あれ? 私なぜ、尽くしたの。求められたから。
一度、女として殺された。
こんなに痛いのに、苦しいのに、私はモノ。モノなのに、痛みを感じる。モノなのに苦しい。オカシイ、オカシイ、オカシイ。
耶万なんて滅べ。耶万の皆、死んじまえ。苦しめ、踠け、転げ回れ。生まれた事を悔いろ。生きている事を悔いろ。
なぜ生きている。恥ずかしくないのか? なぜ息をする。恥ずかしくないのか? なぜ死なない。恥ずかしくないのか?
死ね、死ね、死ね、死ねぇぇぇ!
二度。たっぷり嬲られ、命を奪われた。
恨みを抱きながら誓う。仇を返す、仕返す、殺すと。
死んでも残った清めの力は、妖怪として生きる妨げになった。しかし、どうにも。
幸いな事に、耶万には多くの闇が潜んでいる。その闇を少しづつ取り込み、蓄えた。この身を満たすまで、幾年かかる?
待とう、幾らでも待とう。蓄えた闇を、妖怪の力に変える。強い妖怪に生まれ変われば、願いが叶う。叶えられる。
ムクムク溢れる怨みの念いから、蛇の妖怪が生まれた。
名を付け、手懐けた。気紛れに、飼う事にしたダケ。それが今では、我が子のように愛おしい。
寂しかった。闇の中で、一人きり。怖かった。闇の中で、一人きり。恐ろしかった。闇の中で、一人きり。そんな時、生まれてきた。
もう寂しくない、怖くない。恐ろしくない。
私は一人じゃ無い。同じ妖怪が居る、触れられる。共に、恨みを晴らしましょう。共に、力を付けましょう。
「行ったわね。」
「追う?」
「いいえ。海から根の国へ行く気よ、きっと。」
「そうだね。力を使い果たして、ガタガタだ。」
念珠に優しく触れ、笑みを浮かべる。タヤの闇が、グッと深くなった。