7-124 門出
目からドロドロと、黒い涙が流れている。
代われるなら代わりたい。ごめん、ごめんね。痛かったね、辛かったね。嫌だったよね。
オレが愚かだった。大王の心を推し量らず、考えを述べたから。あの大王が、おとなしく待つワケが無い。
「ゲガザ、レダ。ゴナイデ。」
・・・・・・タオ。汚れてなんか無いよ。あの時のまま、美しいよ。花のように輝く、私の娘。
「ゴメン、ナザイ。マモデ、ナガッダ。」
・・・・・・カル。守ったさ。私たちの娘は、ここに居る。守ってくれて、ありがとう。ありがとう。
タタは抱きしめた。カルとタオを、力いっぱい抱きしめた。
ジリジリと闇に焼かれ、煙が出る。苦しくて痛い。それでもタタは、抱きしめ続けた。
今の耶万には、隠が少ない。外に出たくても、決して出られない。つまり腹ペコ。ジャンジャン、ドンドン増え続けた妖怪は、隠を巡って争っている。
そんな妖怪の前に、隠の親子が。一人は光に包まれ、二人を抱きしめている。少しづつ清められ、ポワポワしている。
「ヴバゾヴ。」
ジュルリ。
「ヴバゾヴ。」
ポタリ。
「ヴバゾヴ。」
ダバァァ。
チョンと触れただけで、ジュッと焼ける。優しい光は、闇を近づけない。それでも諦めない、腹ペコ妖怪。ワラワラ集まり、大騒ぎ。
フワッと、体が軽くなった。
大きな、大きな岩に押し潰されている。首を絞められて、息が出来ない。とても苦しくて、頭がクラクラする。そんな感じだったのに。
「タタ。私、私。」
破れた衣が、元に戻っている。傷も痣も無い。あの時、娘の目の前で穢されて。逃げたくても、逃げられなくて。それで・・・・・・。
タオだけは守りたかった。指一本、触れさせたくなかった。なのに私を抱きしめて、ありがとうって。
「父さん。私、歩ける。」
破けた衣が、元に戻っている。どこも痛くない。襲われて、それで暴れて。ボキボキ折られて、穢されて。いつまでも終わらなくて、それで・・・・・・。
お願いして、殺してもらった。あの子、継ぐ子よね。どこに居るんだろう。ありがとうって言ったけど、伝わったかな。
「良かった。」
酷く疲れた。フラフラで吐きそう、目が翳む。でも良かった。カルもタオも、元に戻った。神様、ありがとうございます。
「さぁ、行こう。耶万を出よう。」
人の世に留まるより、隠の世で生きよう。隠なら、それが許される。根の国で聞いた。
「どこへ行くの?」
「根の国だよ。お許しを頂きにね、伺うんだ。」
「父さんと母さんが居れば、それで良いわ。」
「そうだね。」
優しい光に包まれて、三つの魂がスッと、輝きながら旅立った。