7-123 遅くなって、ごめんね
「な、何て事だ。」
耶万の大臣だった、タタが叫ぶ。
根の国で調べを受け、やっと放たれた。
妻と娘を見守るため、耶万に戻ってきた。なのに、ここには隠が居ない。いや居るには居るが、少なすぎる。それより何より、妖怪が多すぎる。
額から角を生やした妖怪なんて、根の国でも殆ど見なかった。なのにナゼ。ここは中つ国、人の世。隠の世では無い。
それよりカル、タオ。どこだ、どこに居る。生きているよな、死んでないよな。どんな姿でも、生きていれば。頼む、生きていてくれ。
耶万を出よう、オレも行くよ。幸せに暮らそう。いつまでも見守るよ。だから、だから頼む。
「ヲバエ、ヴバゾウダナ。」
ジュルリ。
「ヒィッ。」
闇に抗えず、壊れた妖怪に囲まれた。逃げられない。
カル、タオ。ごめんよ。隠は何が起きても、隠だから。もう少し待っておくれ。きっと迎えに行く、這っても行くから。必ず戻るよ。
・・・・・・?
恐ろしさに立ち竦むも、痛みを感じない。オカシイと思い、目をウッスラ開く。ポワポワ優しく、暖かい色をした光に包まれていた。
この光、そうだ。根の国へ送られる前に、人に戻された。幼子。あの御力が、残っているのか。
襲ってきた妖怪が、煙のように消えた。シュルシュルと、どこかへ消えた。
ありがとう。ありがとうございます。あなた様は、神様ですね。きっと、そうなのですね。
妻と娘を探し出し、耶万を離れて落ち着いたら、魂を捧げます。ですから、どうか。どうか会わせてください。
妻はカル、娘はタオ。色白で美しく、優しい目をしています。娘は妻に似て、花のように輝いています。
「ヴゥゥゥゥ。」
・・・・・・まさか。
「ヴゥゥゥゥ。」
・・・・・・この声は。いや、でも。
妖怪では無い、と思う。角が生えていない。隠か? 何だか違う気がする。しかし、これだけは解る。二人とも死んでしまった。
衣が破けて。
酷い扱いを、受けたんだね。手も足も、折れ曲がっている。真っ直ぐ歩けないから、蛇のようにグネグネと。割れた器のように、ボロボロで。
「ヴァァッ。」
「カル、タタだ。迎えに来たよ。」
「ギャァァァ。」
「タオ、父さんだ。迎えに来たよ。」
「ア゛ァァァァ!」
ブンブン頭を振りながら、ズリズリ後退る。
「遅くなって、ごめんね。カル、タオ。」
タタが歩み寄る。しかし二人とも折れた腕を上げ、顔を隠そうと。
「カル、タオ。隠さないで、良く見せておくれ。」