4-2 幼子は気が短い
「早稲の罪人。捕らえ、縛るまで、かかるのか。」
「はい、恐らく。」
「ヨシは、強い狩り人だと聞く。」
「はい。けれど、早稲には。」
「早稲には。」
「その、獣のように強くなければ、生き残れないと。」
「ん。」
「中には、新しい村を作ろうと考える者がおり。」
「おり。で。」
「もし、その者らが罪人を捕らえ、縛っておれば。」
「おれば。」
「もし、そうなら、そろそろかと。」
「それならそうと言わんか。回りくどい。」
ご機嫌が斜めになり、甘いものが欲しくなった。
「うぅん、これ、これっ!おいしい。」
思わず、足をパタパタしそうになった。が、幼くても祝。耐えた。
「それは、それは。」
し、しまった!
「稲田の、コウとツウにも食べさせたい。伝えよ。」
とっても、良い考え。うん、うん。
「裁きは決まっておる。が、その前に話を聞く。」
何があったのか、わからない。しかし、火口へドボンだ。
「仕置が執り行われるまで、コウとツウを、釣り人の村に隠す。よいな。」
シロは考えた。釣り人の村? 狩り人の村では。いや、待てよ。確かに釣り人たちは強い。しかし。
「何か、気がかりでも。」
うわぁっ、そんな目で見ないで下さい。
「いえ、その。」
「その。」
「早稲へは、釣り人の村から、舟を、出した、かと。」
「それが、最も早い。」
「で、あるなら。罪人を乗せた舟は、釣り人の村を、通る。こと、に。」
「行きは大川、帰りは鳥の谷から。そう伝えた。」
早稲でしょ。逃げられるかもしれない。急ぐなら、大川からって考えるよね、違う?
「いなくなった茅野の子、タツを探すため。草谷のヒデ、日吉のゴウ、茅野のヨシが、鳥の谷へ向かった。」
確かめるように、ゆっくりと言う。
「私の、覚え違いでなければ。『早稲のシゲが、源の泉で待っている』そう、言うておらなんだか。」
シロは考える。糸を手繰り寄せるように。そうだ、シシの山で会って、探すなら多い方がいいからと。
「それで、四人で鳥の谷を探した、と。」
はい。はっきり、思い出しました。
「口に血をつけた、熊を見つけた、と。」
エイの目が、据わっている。
「はい。噴き出水の近くで。」
「子を見つけた、と。」
「はい。腕のそばに、石器が。」
「その石器を見て、シゲが言った。」
「はい。『あっ』と。」
「それから。」
「シゲが早稲へ帰り、三人が守り人の村へ。」
「それから。」
「釜戸社へ、祝の許しが欲しいと。」
「それで。」
「嵐が近づいて来て、危ない。去ってからなら、大川から行くほうが早い、と。」
「それで。」
「そ、それっ、で。」
冷や汗が止まらない。
「行きは大川、帰りは鳥の谷からと。その。」
「その。」
シロが平伏し、言った。
「鳥の谷からなら、狩り人の村を通ります。もし、見つかれば、雲井社へお連れする、二人の子が、狙われかねません。」
この忘れん坊! という目をして、エイが言う。
「幼子は気が短い。」
ふんっ、と胸を張る幼子、エイ。
「はい、エイさま。仰せのままに。」
シロ、飛ぶように走った。釣り長の元へ。




