7-122 物騒なアレやコレ
「遅い! 遅い遅い。まだか。いつまで待たせる。」
耶万の大王が叫ぶ。
「送れるだけ、兵を送りました。」
震えながら、後退る臣。
「もっと送れ。今、直ぐに。」
大王は知らない、闇に蝕まれていると。死人が隠では無く、妖怪になったと。耶万から溢れた闇は、生きている人をも引っ張ると。
真中の七国は、病で動けない。鎮の西国は、取り寄せた薬で持ち直し、攻めてくる。
風見も早稲も、耶万と結ばない。戦の度に組むだけ。戦が終われば、直ぐに引く。
耶万に滅ぼされた国の生き残りは、驚くほど少ない。
戦場に放り込まれ、死んだ。ボコボコ子を産まされて、死んだ。酷い扱いを受け、死んだ。死んだ。死んだ。
残りの兵を北へ送れば、戦えなくなる。西からドッと、攻めてくるから。譬え大王を差し出しても、戦は止まらないだろう。それだけの事を、耶万は。
「大王。残りの兵を送れば、この地が奪われます。耶万が滅ぼされます。」
「なぁにぃをぉぉ?」
闇に蝕まれると人は、周りが見えなくなる。
大王の頭の中は、祝のコトでイッパイ。強い力を持つ、祝。巫とも覡とも違う、大きな力。欲しい。欲しい。欲しい!
ワシは大王。耶万が全てを従え、やまとを統べる。そのために要るのだ、力が。大いなる力が。王の中の王に、やまとの大いなる王に。そのために!
ガタッ、ガタガタガタッ。ガタガタ、ドッシャァン。
大王に纏わり付いていた闇が、グワッと深まった。アチコチからシュルシュルと、吸い寄せられるように集まる。
多くの人が、命を失った。闇に染まった魂が牙を剥き、隠では無く妖怪に。額から角がニョキッと生え、フラフラ立ち上がる。
目は赤く虚ろ、ガリガリに痩せて動けなかったのに、力が漲る。
「ヲォォォォォ!」
大貝山の統べる地は閉ざされ、耶万の闇が漏れる事は無い。神の御力で閉ざされた里や村、国は守られた。神が御隠れ遊ばした地は、酷いモノ。
闇に抗えず壊れた妖怪が、生き残った人を食らう。まだ温かい、骸を食らう。隠たちは闇に中てられ、守りたい人を苦しめた。
嬰児、幼子はアッサリ。年老いた者はポックリ。
妖怪になった若い者は、我を忘れて貪り尽くす。生まれたばかりの我が子。慈しんで育てた我が子。優しく導き、育ててくれた親。その死を悼む事なく、残された骸を。
「つっ、土ぃ。」
「はっ、はい。」
大貝神。使わしめをギュッと、抱きしめ為さる。
耶万神、どう為さる御つもりだ。闇を捨てる地など、どこにも。流山は使えぬぞ。三柱、耶万のために集われるのか?
一柱は、まぁ。統べる地から、闇が溢れたのだ。もう二柱・・・・・・。
「耶万の闇を少し採り、隠神へ。」
「はい。」
和山社へ入れるのは隠神か、国つ神の使わしめに限られる。
大貝神の使わしめ、土。壺に閉じ込めた闇を持ち、蜘蛛の姿で隠の世へ。落っことすとイケナイので、輿に乗ってネ。