7-121 潰えた望み
夜鳴泉に潜む耶万の兵は、三つに分かれた。
一つは舟に乗り、渦の滝を目指す。一つは川沿い、森の中を進む。残る一つは川を渡り、橡の大木を目指す。
流山の国は、大きくて豊かだ。人を幾らか攫っても、直ぐには気付かれない。橡の大木を望む地に、村がある。
ミミほどでは無いが、美しい娘が居た。それも祝だ。
舟のヤツらが、流山から人を攫う。森のヤツらが、それを助ける。残る一つが、祝を攫えばオレたちの勝ち。
「ミカさん、逃げよう。夜鳴泉のヤツら皆、死んだ。骸を熊が、シシが食らったんだ。」
「行くぞ。」
夜鳴泉と、泡の泉のヤツらが仕掛けてから、二つ夜を明かした。北のは勝ったと、隙だらけ。少ない兵で戦うんだ。頭を使って戦わなけりゃ、生き残れない。
耶万の夢も、他の薬も戦の具も、何もかも奪われた。持ち出せたので戦って、祝を奪う。
祝ってのは、巫とも覡とも違う。夜鳴泉のを殺したのは、バケモノを従える祝だ。
考えてみろ。巫も覡も祝も奪えず、人も攫えず戻って、生きられると思うか。耶万の大王は、どんなヤツだ。
オレたちに残された、生き残る道は一つ。祝を奪う事。
「そう、だな。ウンそうだ。」
「・・・・・・ハァ。」
嵓社の継ぐ子、キイ。水に魂を溶かし、飛ばす力を生まれ持つ。幼子だが、山一つなら飛ばせる。
「悪い夢でも、見たのか?」
キイは毒嵓の頭の、死んだ娘の忘れ形見。
「違うよ、爺さま。噴き出岩のが動いたの。」
「行け。」
スッと忍びが祝、シュンの元へ。
夜が明けて、直ぐ。
舟に乗った兵たちは、シュンに殺された。息が出来ず、苦しみ踠いて死んだ。そのまま舟は流され、骸を運ぶ。南へ。
森を進んだ兵たちは、スイとシラに殺された。毒を吸い、幻を見せられ真っ逆さま。動きを鈍らせる毒なので、獣が食らっても障り無い。
橡の大木を目指した兵は、シナと毒嵓に殺された。飛び交う石に、頭や首を狙われた。それで死ねたら良かったのに、残りは毒嵓に刻まれた。
嵓も毒嵓も、直ぐに殺す。甚振らない、嬲らない。流山の妖狐たちが、ミカとクベを踊らせた。マンマと騙され、バタバタ死んだ。
今は秋。冬籠りに備える獣たちが、ぱくぱくモリモリ食べる時。子を産んでもらうため、シッカリ食べさせなければ。
「なっ、何が起きた。」
目の前を、死人を乗せた舟が流れる。苦しそうな顔をして、こちらを見ていた。
「静か過ぎる。」
ミカは川沿いを進み、橡の大木が見える所に居た。
「く、苦しい。」
息が出来ない、頭が痛い。体の中に、小石が入ったようだ。ボコボコ流れて、目が翳む。
「戻れる。」
「やっと放たれた。」
死んだ兵の魂が、耶万を目指してユラユラと。
「オレ、は・・・・・・死ね、なぃ・・・・・・。」
ミカは死んだ。ミミと己の首飾りを、ギュッと握りしめて。蹲って死んだ。