7-120 変わる未来
「そうか。」
使い梟と使い熊が、揃って知らせに来た。夜鳴泉から兵が引いた。泡の泉からも、兵が消えた。
「オロチ様。何か、悪い事でも。」
「いいやシゲ、良い事だ。兵がな、中の東国の真中から、多く消えた。」
皆、キョトン。
中の東国とは、この地のコト。真中? 七国から、兵が消えた?
「中の東国の真ん中に在る地を、『中の東国の真中』と呼ぶ。」
「おぉぉ。」
そうなんだぁ。
「耶万の兵が、この地に戦を仕掛ける。その前に止める。隠の世を守るため、人の世を守るため。隠と妖怪が、人と力を合わせた。」
厳樫社の禰宜、上木の社の司、鴫山社の祝、矢弦社の禰宜。それぞれ先見の力で見た全て、使わしめを通して隠神に。
沢出社の祝は、社憑きの妖怪を。茅野のタエは、良村のマルを通して伝えた。先読の力で知り得た、全てを。
先見、先読。どちらにも狂いは無い。見た事は必ず起きる。急ぎ知らされ、隠の世に知れ渡る。中つ国で戦が始まれば、隠の世に闇が流れ込むから。
耶万の闇は深い。殺された祝が妖怪になり、広めた。他の闇とは、全く違う。
人の世と隠の世は近い。国つ神は、ノンビリとして御出でだ。隠神が動くしか無い。幾度も神議りが開かれ、大急ぎで整えられる。
霧雲山では、山守の裁きが。飯田の村では、雲井の裁きが開かれた。良村は、嵓と結ばなかった。流山で妖怪が仕掛けた。双、楢守、嵓が結んだ。
「オロチ様。曲川の川下に、耶万のが潜んでいます。それも?」
コタは、上木と樫の人から聞いた。死んだ魚のような目をした兵が、集まっていると。
「噴き出岩のは、残って居る。夜鳴泉から逃げた子が一人、噴き出岩を目指した。」
タケとムロが驚き、見合った。
夜鳴泉から噴き出岩まで、とても離れている。子の足で、辿り着けるとは思えない。
それに何より、今は危ない。
冬籠りに備え、熊がウロついている。鳴り物を持っていれば良いが、犬も連れずに子が一人。当てもなく森を歩くなんて。
「その子は、誰を頼って。」
コノが悲しそうな目をして、尋ねた。
「加津のミカだ。逃げた子は、大石のクベ。飯田で名を問われ、無いと答えた。」
「あぁ、あの子か。」
「知ってるの、シゲ。」
飯田で見つかった、耶万の奴婢たち。その中に居た一人。幼い頃のタツやカツと、同じ目をしていた。
耶万から酷い扱いを受け続け、歪んでしまったのだろう。
あの子も育てば、狂うのか。誰か一人でも寄り添い、支える大人が居れば・・・・・・。
思い悩んでも救えない。あんなに歪めば、戻れない。気の毒だが諦めよう。オレは長、良村を守る。
「オロチ様。タエが見た、鮎川の東の兵は。」
「死んだ。渦風社の者らが、残らず片付けた。」
サラリと、恐ろしい事を言ってのける大蛇。良村の皆も、慣れたモノ。『そうなのか』としか、思わない。
それはソレで・・・・・・。