7-119 ニャンコ晴れ晴れ
神成山、渦風社。仕える人たちは皆、控えめに言って、血の気が多い。
朝までモフられ、ピクピクするニャンコを見て思った。動かねば、と。
社の司イトには、強い清めの力。禰宜テトには、守りの力。祝ヨウには、水を操る力が有る。
祝人頭トキには、土を操る力。祝女頭ヒタには、風を操る力。継ぐ子イリには、先見の力が有る。
「私が見た通りに、なりましたネ。伯父さんっ。」
イリが冷たい目をして、イトを見る。
「ここは社。社の司と呼ぶか、イトさまと呼びなさい。」
「はぁい。」
「伸ばさない。『はい』と、言いなさい。」
「はいっ。これで良い?」
・・・・・・ハァ。妹が命と引き換えに産んだ子だ。しっかり躾けたのに、なぜ。
イリは見た。耶万の奴婢が舟いっぱい、この地に連れ込まれるのを。戦の具や毒を持ち込み、備えるのを。
神に申し上げたが、それっきり。ならばと熊神へ申し上げた。
隠の世は動きが早い。人の世とは大違い。神議りが開かれ、決まった。
隠の世は守られる。
はじまりの隠神、蛇神が仰った。『隠の世は、我が守る。これまで通り力を合わせ、支え合い、幸せに暮らそう』と。
シビれた。
「イトさま。我らも動きましょう。」
テトの目が、ギラリと光った。
「どう動く。」
「私の力で閉じ込め、ヨウの力で溺れさせます。」
禰宜テト。ニッコリ笑って、恐ろしいコトを。
「それは・・・・・・。」
「では私の力で、刻みましょう。」
祝女頭ヒタ。目が笑ってナイ。
「それも・・・・・・。」
「では私の力で、埋めますか?」
祝人頭トキ。目をキラッキラ輝かせ、ニッコリ。
控えめに言って、コワイ。
イトじゃ無くても、頭を抱えます。渦風社の皆さん、考えましょう。良い子たち、泣いちゃうよ。
禰宜が守りの力で、泡の泉に潜む兵を閉じ込める。ここまでは良い。
それを祝が、水の力で溺れさせる? 祝女頭が、風の力で切り刻む? 祝人頭が、土の力で埋める?
話し合いは続き、ニャンコが叫ぶ。
『アタイを思うなら、社で待つ。ニャンとしても止める!』 暫くして、『でも、手伝って。』
ウン、かわいい。
熊神の御力で姿を隠した禰宜が、守りの力で兵を閉じ込める。続いて祝女頭が、風の力で切り刻む。
祝人頭が土の力で穴を開け、刻んだ骸をポイ。サッと埋め、固める。仕上げに祝が水の力で、汚れを洗い流す。
残った魂は、流がボンボン投げ込み、溢れる前に妖怪が蓋をする。壺はドンドン社へ運ばれ、社の司が淡淡と清めた。
見張りは、隠が担った。
はじめは断った。継ぐ子イリの力により、見られる事は無いと判っている。しかし、熊神は恐れた。
神成山の統べる地は、南へ流れる川が多い。もし知られれば、祝を巡る争いが始まる。そこまで言われれば、受け入れるしか無い。
中つ国の二世。
人の世と隠の世は、表と裏。隠神を怒らせたら、渦風神にモフリ倒される。あっ、アタイの身が持たニャイ! よって、このように。
泡の泉から兵が消えた。こちらは一人残らず、根の国へ。心做しか、流の顔がスッキリしていた。