7-118 あらら
「止めろ。寄せろ。オレは降りる。」
「はぁ? オレは死にたくない。だから止めない。」
「だったら寄せろ。」
「嫌だ。降りたきゃ、川に飛び込め。」
クベは黙って、飛び込んだ。
川下に流されるように進んでいたので、沢は川に。多くの沢が流れ込み、それなりに深くなっている。
流れが早いので、川上を向いて入らなければ溺れる。ガッチリしていても、クベは子。足が届かない。
大石の近くを流れていた川も、流れが早かった。川の真ん中に入るなと、良く言われたモンだ。
少し流されたが、何とか泳ぎ切った。這い上がり、一休み。このまま真っ直ぐ北へ進めば、曲川に出るハズ。
そんなに流されて無い。滝の南か、滝と橡の大木の間か。そう信じて、進もう。
「行くか。」
ノソッと起き上がり、北を目指す。
「どうした、シュン。」
「萬さま。一匹、舟を降りました。」
「そうか。」
「こちらへ来ます。クッ、ククク。」
こい来いコイ。惑わせ、谷に落とぉす。
「シュンよ、止めておけ。」
悪ぅい顔して笑う祝って、どうなの?
使わしめと祝のヤリトリを見て、前足を合わせて震えるコンコンたち。嫌呂と悪鬼は思った。
怖い恐ろしい、帰りたい。助けて、蛇神様ぁぁ!
「あノぉ。」
嫌呂の声が、裏返った。
「何だい、狐サン。」
シュン。祝の顔に戻し、ニコッ。
「ヘヴィ神の、オぉセに。」
裏声祭り、開催中。
「こりょしちゃ、いっ。いけましぇん!」
悪鬼。直立不動で、目をパチパチ。
「そうだね。ありがとう。」
顔は笑っているのに、目がコワイ。
「シュンよ、狐を虐めるな。豊に叱られるゾ。」
流山の保ち隠、豊は妖狐。隠の世の出入りと、妖怪の墓場を取り仕切る、流山のドンである。隠でも妖怪でも、人でも御構い無し。
抱き合って震える妖狐を見つめ、ニコリ。仲良く気を失い、パタンと倒れた。あらら。
「さぁて、始めますか。」
「流? ・・・・・・おぉぉいっ。」
熊神。痙攣するニャンコを、木の枝でツンツン。
「ニャにゴト!」
神成山の統べる地に、奴婢が連れ込まれた。恐れ山、霧雲山、神成山の統べる地では、決して許されない。認められないコトなのに。
逃げ込んだなら、社を通して受け入れる。連れ込まれたなら、許さない。
神成山から流れる、渦巻川が溢れた。ドワッと漲り、グワッ。ドバッと流れて止まらない。
流は悟る。渦風神の御心を、穏やかに出来るのはアタイだけ。
『渦風神。心行くまで、どうぞ!』と、もふもふ我が儘ボディで、神を誘惑。
捨て身で事に当たった使わしめ、流。アッパレ。功を奏し、多くの命が救われた。
めでたしメデタシ?