7-117 力を合わせて
ヒュー、ザワザワ。ピュー、ザワザワ。
「急げぇぇ。」
ヒュー、ザワザワ。ピュー、ザワザワ。
「舟を出せぇぇ。」
耶万に滅ぼされ、奴婢に。逃げられず、北へ送られた。
鎮の西国や、真中の七国から攻めてくる。足りない兵を補うために、北の国を滅ぼす。
北の巫、覡。祝を攫えば、放たれる。
そんなのデマカセ。嘘に決まっている。それでも縋った。死にたくないから。生きたいから。
ヒュー、ザワザワ。ピュー、ザワザワ。
「漕げぇぇ。」
ヒュー、ザワザワ。ピュー、ザワザワ。
「急げぇぇぇ!」
真っ先に逃げたのは、大石のクベ。毒を置いたまま、転がるように。戻れば殺される。耶万を滅ぼすには、餌が要る。なのに取り損ねた。
女、祝、巫、覡。どれも攫えなかった。
耶万の大王は、人じゃ無い。頭がオカシイ。このまま戻れば殺される。オレは死ねない、まだ死ねない。
「ダァァッ。」
兵に舟を漕がせ、頭を抱えた。
夜鳴泉から、兵が引いた。逃げ出した。双、楢守、嵓。三つの隠れ里が結び、仕掛けた。
幻を見せる嵓の祝人、スイが霧で辺りを遮る。双と楢守の祝が声を届け、嵓の祝女シナが、石を動かす。怯えさせ、震え上がらせ、追い詰める。
逃がしても戻ってくる。だから、殆ど殺した。戻れば命が無いと、魂に刻むため。
嵓の祝女シラが、霧に毒を仕込む。動きを鈍らせ、痛みを止めた。生きていれば、直ぐに抜ける。そう、生きていれば。
嵓の祝シュンが兵を凍らせ、動きを止める。毒消しを飲んだ毒嵓が、石を投げて打ち砕く。
石が足元に集まるので、探さずに済む。投げられた石はコロコロ戻り、また投げられる。繰り返し、繰り返し。
「フンッ。」
「萬さま。宜しいのですか。」
「ん?」
「残らず消しましょう。」
シュンがサラリと、恐ろしい事を言う。
噴き出岩にも、兵が潜んでいる。こちらには、加津のミカが居る。
クベの願いは、唯一つ。
好きでも無い男に穢され続け、誰の子か分からない嬰児を産み続ける、姉と妹を助け出す。そのためになら、死ねる!
このまま耶万に戻れば、大王に殺される。バケモノに殺される。生き残らなけりゃ、救い出せない。
守れなかった、救えなかった。それじゃあ、何のために生かされてんだ。
行こう、北へ。ミカに会って、何が起こったのか話す。
北の地にはバケモノが居る。霧を操り、人を凍らせ、叩き壊す。そんなバケモノが幾らでも。
『知らずに攻め込めば、殺される。だから知らせに戻った』とでも、言えば良い。
ミカはオレと同じで、死ねない。死んだら果たせない。だから、死ねないんだ。