7-115 死なせたくない
「シゲにも、見えるのかい?」
「ん?」
「使わしめって隠とか、妖怪だろう?」
厳樫神の使わしめ八咫は、烏の妖怪。沢出神の使わしめ岩は、熊の隠。
妖怪は、人に姿を見せられます。姿を見せられる隠は、古の隠だけ。
実は岩、熊なのに狸寝入りを決め込み、動きませんでした。呆れた祝が社憑き、靄に依頼。いつもの事です。
靄は、幻術を得意とする妖狐。人に姿を見せられる。
「そうか。認められれば、オレも話せるのか。」
ノリの目が輝いている。
「そうだな。」
シゲ、苦笑い。
因みに。大蛇から御土産に、良山銘菓『炒りカヤ』を手渡され、御満悦。薄皮つきで、ポテチのよう。隠にも妖怪にも、大人気。社の皆で、美味しく頂きました。
岩の分はナシ。
働かざる熊、食う可からず。
良村に情報を齎したのは、樫と心消だけでは無い。上木、双、嵓、楢守からも。
上木の社の司には、先見の力。祝には、風の声が聞こえる。上木の祝には代代、同じ犲の隠が憑く。この度も、銀が知らせてくれた。
双樫と楢守の祝には、木の声が聞こえる。嵓の祝女には、石を操る力が有る。木の力と石の力を借りて、良村まで声を届けた。受け取ったのはマル。
祝の力が無ければ、声は届かないらしい。
「嵓と大貝から、使わしめが来た。耶万から溢れた闇は、妖怪によって作り出されたモノだ。」
大貝山の統べる地は閉ざされ、少しづつ清められて居る。しかし闇は深く、濃くなるばかり。
耶万に攻め込まれ、死んだ人。耶万に嬲られ、死んだ人。耶万の奴婢として、死んだ人。殺され死んだ魂が闇に飲まれ、広がり続ける。
困った事に、その闇。人に憑く。耶万を出ても、離れず深くなる。幾人か霧雲山の統べる地に入ったが、清められなんだ。
「耶万の闇は、移るのでしょうか。」
思いつめた顔をして、カズ。
「移る。広がる。」
「オロチ様。」
「シゲ、その通りだ。マルなら、耶万の闇を清められる。」
清めの力を持つ祝は他にも。しかし耶万の闇を清められる、強い祝は居らぬ。
マルは我の愛し子。祝の力を生まれ持つ、子だ。一人二人なら障り無い。今の器でも、耐えられる。
マルは良山を清め守る。加えて清めるとなると、多くは難しい。力を使い果たし、死ぬだろう。
心消の祝も、茅野で暮らすタエも、先読の力で見た。マルが力を使い果たし、死ぬ姿を。
二人とも、マルを死なせたくない。
繰り返し力を使い、択び選んで導き出した答え。祝辺の守と、嵓を動かす事。それぞれ出来る限りの事を行い、大きく変わる。
「耶万の奴婢が二人、嵓の罠に掛かった。」
幻を見せる祝人と、毒を撒く祝女。力を合わせ、仕向けた。
加津のミカと、大石のクベ。二人とも偽りを信じ、耶万の兵に言う。『明くる朝、仕掛ける』と。
南の地で、大戦が始まる。その前に、減らせるだけ減らす。闇に飲まれた魂を、一つでも多く救うために。