7-114 天然モノよ
「あのな、樫から使いが来た。」
「使いって、誰だい。」
ムロがシゲに尋ねた。
「厳樫神の使わしめ、八咫さま。」
・・・・・・。
「えぇぇ!」
樫の隠れ里。厳樫社の禰宜には、弱いが先見の力が有る。その禰宜が、見たそうだ。渦の滝の下。橡の大木と噴き出岩の間で、戦が始まるのを。
嵓が戦い退けるが、終わらない。
ウジャウジャ兵が押し寄せて、祝の力が使われる。それを見た生き残りが、泡の泉へ。潜んでるのに、伝えるために。
ソイツ、耶万へも知らせるんだ。それで知られる。北の地には、バケモノが居る。巫とも覡とも、全く違う。強い力を持つ、祝が居ると。
曲川から攻めてくるのは、嵓が仕留める。鮎川から攻めてくるのは、祝辺の守が仕留める。霧雲山の統べる地では、誰も死なない。はじめの戦では、な。
「まさか。」
嫌ぁな感じがした、カズ。
「そうだ。次の戦で、死人が出る。誰かは分からない。見えなかった、そうだ。」
「なぁシゲ。泡の泉って、ドコに在るんだい?」
「ここから東の、鮎川沿い。溪川が流れ込む辺りから、少し西。川から南へ、暫く。」
「あぁ、アレか。」
「知ってるのかい、ノリ。」
ノリコがな、吠えたんだ。舟の中でグルグル回って、行こうよって。縁に寄せて、舟を降りた。タッと駆け出してな、ジィと見るんだ。ついてったら崖に出た。
枯れた川だよ、渦の滝まで続いていた。そこで夜を明かした。日暮れだったし、大きな魚が泳いでたから。
朝になって、鮎川を目指した。もう少しってトコで、東へ走ったんだ。で、見つけた。コポコポとな、湧いていた。泡だらけの泉さ。
温かいから、出で湯だなアレ。浸かるには狭いし、ぬるい。冷えそうだったから、入らなかった。
試しに飲んだら、シュワシュワした。毒は無いぜ。シュワシュワするダケ。竹筒に汲んで、戻ったよ。
「あっ、アレか。シュワシュワするって言われて飲んだら、シュワシュワしなくてさ。」
カズが思い出した。
「そうそう。けどさ、嘘じゃ無いぜ。シュワシュワしたんだ。」
泡の泉は、炭酸泉。ノリたちが飲んだのは、天然の炭酸水です。早稲まで遠すぎて、二酸化炭素が抜けちゃった。
近くを探せば、あるかもヨ。アッツ熱の、出で湯。
「御使いはな、他にも。」
ニコニコしながら、シゲ。
「樫の次だから、上木かい?」
チョッピリおどけて、タケ。
「いいや、心消。」
残念、ハズレ。
心消の隠れ里。沢出社の祝には、先読の力が有る。その祝が見た。泡の泉から鮎川へ出て、攻めてくる兵を。
隠神に詰め寄られ、重い腰を上げた祝辺の守。平良の烏に乗って、隠の守が出る。
霧雲山の統べる地に入った兵から、魂を剥がして甕にポイ。骸は残らず妖怪が焼いて、骨も残らないンだとさ。