7-112 いらしたんだ
「病持ち? って、まさか。」
コタの顔つきが変わった。
「あぁ。そのマサカだ。」
センが答える。暫く誰も、何も言えなかった。
良村の毒消しは、あの毒にも効く。
ほんの少し吸い込んだダケで、木菟が動けなくなった。そんな毒にも効くのが、良村の毒消し。
南では採れない草や花など、いろいろ使って作る。だから、なかなか手に入らない。良く効くと、口から口へ伝わった。
良那の人が、良村の毒消しを持って出た。という事は、毒を盛られると。
良那は大国。毒を盛るとすれば、同じ大国。考えられるのは耶万だけ。
「なぁセン。良那が救ったのは、耶万の子かい?」
シンが尋ねた。
「あぁ。耶万社の、継ぐ子らしい。」
「名をアコ。十一の男の子。親無しで、縁の者も居らぬ。」
「オロチ様。アコには祝の力が、眠っているのでしょうか。」
「良く分かったな、シゲ。」
その通り。とても強い、闇の力を持って生まれた。それに気付いたのが、耶万の社の司。
恐れたのだろう。酷い扱いを受けて、なんとか育った。歪んで居る。が、真と偽りを混ぜぬ。何れは社の司となる、良い子だ。
アコの力を恐れた社の司、タクが外へ出した。表向きは、良那の使いを迎えるため。裏では病に罹らせ、撒き散らそうと考えた。
毒消しを飲まされ、病は癒えた。
食べられるようになり、少しづつ歩けるように。死にかけた事で、闇の力が目覚めた。はじめは戸惑ったが落ち着き、いろいろ見えるように。
アコは知らなかった。病に罹っている事も、散蒔くために放たれた事も。
「耶万に戻されるのですか。」
コノは思った。闇の力が何なのか、全く分からない。けれど良那に引き取られれば、幸せに暮らせるのではと。
「何れ戻される。それまでは、良那で暮らす。」
「そうですか。」
妹の手を握り、コタが微笑む。コノが泣きそうな顔を、していたから。
「鎮のは沼田と、早稲の間で引き返す。そう聞いた。」
センが続ける。
「聞いたって、誰から?」
タケが問う。
「浅木の長から。」
浅木は沼田の西南、川の西にある豊かな国。炭焼きと商いが上手い。仕掛けられれば直ぐ動き、叩きのめす。
風見が幾度か仕掛けたが、思い知った。決して勝てないと。風見だけで無く、多くの村や国から、とても恐れられている。
「あの長が言うなら、そうなんだろう。」
シゲは浅木の長と、幾度か会っている。
「もし兵が通れば、早稲社から知らせが来る。」
「オロチ様。その知らせ、人ですか。」
真剣な顔をして、ムロ。
「使わしめだ。」
大蛇、ドヤ顔。良村の皆、パチクリ。
「いらしたんだ。」
シンが呟いた。