7-111 戦争と疫病
夕餉を食べ、お片付け。良い子はスヤスヤ、夢の中。良村の大人は集まり、話し合う。
「行きは東の白渦川。帰りは浜木綿の川から山割川、牙の川、鳥の川とね。」
暴れ川を下るつもりだったが、風が気になった。遠回りになるが、東から下ろう。何となく、そう思ったのだ。
「なぁセン。南は、どんなだ。」
ノリに問われ、考え込む。
「酷いモンさ。」
見たまま話した。見ていられない、アレやコレを。
耶万の闇は、アッという間に広がった。神の御坐す地は、何とか。滅ぼされた村や国では、どうにも。
大貝山の統べる地が閉ざされ、少しづつ清められている。とはいえ、手遅れ。
耶万は、大貝山の統べる地に在る。
耶万から溢れる闇を、祓うか清めるか。そうしなければ終わらない。閉ざされた地で、いつまでも闇が渦巻く。
耶万の闇には、殺された祝が関わっている。隠では無く、妖怪になった。鎮められる人は、祝だけ。
強い清めの力が無ければ、清められない。
「オロチ様。タエの見た事、この先に。」
「起こる。タエの力は強い。」
大蛇は尽くした。
根の国の禍つ神と議り、高天原の天つ神とも議り、整え備えた。闇が流れ込む事は無い。中つ国が闇に飲まれても、隠の世は守られる。
マルが幸せなら、それで良い。マルが笑っていれば、それで良い。だから良山、良村を守る。他は、どうでも。
「梟神から聞いた。鎮の西国から、兵が押し寄せたと。南の地は荒れ、多くの命が。」
梟は夜行性。隠神だって梟ですもの。昼はスヤスヤ、夜パッチリ。
非常事態に昼行性とか夜行性とか、関係ない。バリバリ働きその結果、寝不足と過労により、食欲が落ちた。そのうちポックリと・・・・・・。
蝙蝠も危ない。興奮や緊張のあまり、ギンギンに飛び回っている。
集団意識が強いので、羽目を外す事は無い。とはいえ心配。一匹でも体調を崩せば、大流行。下手すりゃ絶滅してしまう。
サッサと終わらせなければ! 鷲神、鷹神、鳶神。昼行性の猛禽類に、支援を頼んだ。交替での勤務を徹底し、シッカリ休ませている。
「耶万に入れば、闇に飲まれる。勝てぬなら北を目指し、奪おうと。」
人の姿に化けた大蛇。思わず溜息。
「チラホラいました。アレは、鎮の人でしたか。」
「セン。それ、その。どこまで?」
カズが問いかける。
海から浜木綿の川に入る時、見た。遠くからな。
舟がワンサカあって、怖かったよ。舟より大きいんだ。きっと多くの兵、戦の具、毒や何やイロイロと。そんなのを五つ、この目で見た。他にも来るだろう。
少し進んだ辺りで、岸多の人に会った。言ってたよ。『鎮の人がワンサと押し掛けて、戦を始めた』って。狙いは耶万だ、攻めるのも。今はな。
社に使わしめが来て、言ったらしい。『備えるように』って。
見える人が居る村とかは、備えられた。居ないトコロは大騒ぎ。穫り入れが終われば始まる商いが、全く。海もオカシかった。静か過ぎる。
もう少し進んだ辺りで、良那の人に会った。言ってたよ。『救った子が病持ちで、良村の毒消しを飲ませた』って。