7-109 耶万の夢
ミカとクベは国を出る。流山の南で待っている、耶万の元へ行く。
流山の長から引き留められたが、深深と頭を下げ、断った。残りたいが、残れない。耶万を滅ぼすため、進まなければ。
二人の思いは同じ。
流山の長、悪意について。
ミカは思った。女好きだが、敵に回してはイケナイと。クベは思った。賢く、怠らない長だと。
兵の数では、耶万に劣る。兵の出来は、流山が上。戦が長引けば、耶万が勝つ。サッサと片付けば、流山の勝ち。
耶万の夢を使えば、勝てる。そう思っていたが、言われなかった。寄越せとか、教えろとか何も。
薬を試したのは死んだか、壊れたか。戦で使うのは危ない、とでも思ったか。何も言われないのに、勧められない。聞けない。
耶万から幾らか、狂ったのが行った。耶万の夢に酔い、溺れたヤツら。生きて戻ったなら、もっと多くの兵を送る。戻らなかったんだ。だから少しづつ、送った。
「クベ、どう思う。」
「どうって、流山は知ってますよ。『耶万の夢』が何なのか。」
人を人で無くする薬。薬ってより、毒。『耶万の夢』美しい名だけど、とても危ない。
今井の人は死んだ。耶万の夢を試され、殺された。壊れて死んだ。みんな死んだ、殺された。誰も残って無い。残らなかった。
滅ぼされた国は、どこも同じ。同じだけど、今井は違う。皆殺し。
残された地では、耶万の夢が作られる。奴婢が送り込まれ、薬に溺れて死ぬまで。使えなくなるまで、使われる。使い捨てられる。
戦で傷ついた兵、病に罹った女たち。ボロボロになるまで使われて、死ぬまで使われる。
動けなくなれば、新しい薬を試す。どれだけ使えば、どうなるか。何を加えれば、どれだけ加えれば。
耶万は焦った。同じ毒から、違う毒が出来たから。
耶万のと早稲のは、全く違う。風見の毒が入っているのは同じ。なのに効き、時、動き。全て、早稲のが上。
「調べますか。他にも、あるか。」
クベが問う。
「あぁ、調べよう。」
ミカが答えた。
隠たちが後を付け、コッソリ見張る。
気が変わって戻っても、騙し通すため。流山を出たら直ぐ、嵓社。嵓神の使わしめ、萬の元へ。
「こんにちは。流山から来ました、使い隠です。萬さま、いらっしゃいますか。」
モヤモヤ、モヤァァ。ブワン。
「お待たせしました。萬です。」
ニコッ。
そうですか。『耶万の夢』ねぇ、毒ですよアレ。
南の闇を纏ったのが、潜んでいます。隠の世は閉ざされましたが、あの闇。シブトイですよ。
何が何でも、止めます。
戦になれば、死ぬのは嵓の人。良村の人は傷つけません、死なせません。
もし何か有れば、蛇神の愛し子が悲しみます。そうなったら荒ぶられます。終わりですよ、人の世なんて。
「申し上げます。流山を出た、加津と大石。滝無し壺から、泡噴きの泉。山に登り北、峰から峰へ。」
使い隠、ゼイゼイ。
「コンコン、やるぅ。」
使い隠に沢の水を勧め、ニッコォ。