7-106 拍手喝采
加津のミカと同じ洞に、大石のクベを放り込んだ。雨風を凌げれば、それで良い。朝が来れば、南へ送る。
今、流山は包まれている。隠の世から集まった、隠や妖怪の力で。
人なんてイチコロ。
参謀総長は、保ち隠の豊。この山を知り尽くす、流山のドン。狐の隠なので、あんなコトやこんなコトも。フッフッフッ。
劇団コンコン流山公演、『幻の国』。二幕までは大成功。夜が明ければ、第三幕へ。
朝から公演が有るので、打ち上げは無し。嫌呂、悪鬼、豊の三妖狐。流山の妖怪の墓場にて、作戦会議中。
「この毒、どうする。」
保ち隠、豊。嫌そうな顔をして、切り出した。
「和山社、かな?」
愛らしく首を傾げて、悪鬼。
「蛇神の御坐す良山へは、持ち込めない。」
ハッキリ言う、嫌呂。
良山には、良村が在る。良村にはマル。蛇神の愛し子が、幸せに暮らしている。
転んだり落としたりして、毒が入った壺を割ったら。袋の口が開いて、毒が出たら。・・・・・・終わる。
愛し子は親無し。
良村の大人が親代わり。そんな人が壊れたら、深く悲しむ。蛇神は隠。はじまりの隠神。止まらない、止められない。
愛し子の飼い犬、マルコは釜戸山の生まれ。他の犬より、鼻が利く。
毒が外へ出れば、吠えて知らせる。もし毒を吸い込み、飼い犬が死ねば? 深く悲しみ、心を閉ざすだろう。
荒ぶる隠神を鎮められるのは、はじまりの隠神だけ。その隠神を鎮められるのは、愛し子だけ。つまりマルの幸せが人の、延いては隠、妖怪の幸せに繋がる。
隠の世で暮らす隠、妖怪の願いは一つ。和やかで穏やかな暮らしを守りたい。それだけ。だから力を合わせて、事に当たった。
「和山社へ持ち込むとして、手立ては。」
豊が頭を抱える。なぜって? 当たり前だから。
和山社は、やまと隠の世に在る。人の世から行くには、二つ。妖怪の墓場を抜けるか、中つ国の闇を抜けるか。言うのは良いが、行うのは・・・・・・。
豊は保ち隠、妖怪の墓場を抜ければ良い。イエイエ、それが難しいのデス。なぜって? 霧雲山に在る妖怪の墓場が、シッカリ閉ざされているから。
やまと隠の世を清めの膜で包み、守るための社。それが和山社。
壱の天霧山、弐の霧雲山、参の乱雲山。和山三嶺から社を通して、張られている。その中に在るのだ、和山社は。
隠神の御許しが無ければ、和山に近づく事も出来ない。使わしめなら、隠でも妖怪でも入れる。
しかし一度でも放たれれば、決して入れない。許されるのは近づき、言伝を頼む事だけ。
水豊神は使わしめを放たれ、御隠れに。
豊は元、使わしめ。近づき、言伝を頼める。しかし、その言伝。良い妖怪に変わろうと努める、悪しき妖怪のモノ。
嫌呂も悪鬼も、悪意と連んでいた。そんな妖怪の言伝、断られる。隠になった祝を連れてゆき、頼めば何とか。
長瀬山が流れ、全ての生き物が死んだ。流山と呼ばれるようになり、隠たちは根の国へ。残らず生まれ変わり、他の地へ。つまり、誰にも頼めない。
「良山の保ち隠に、お頼みしては?」
閃いた悪鬼、コンッと一言。三妖狐、見合ってパチクリ。肉球ポムポム、拍手喝采!