7-104 ココは一先ず
オレは死ねない。オレが死んだら、誰が姉さんと妹を。
守れなかった。だから助ける、救い出す。もう少し待っていて、きっと行くから。
誰の子か分からない嬰児、どれだけ産んだって。知らない嫌な男どもに、何されたって変わらない。オレの姉さん、妹さ。
耶万を滅ぼす、潰す消す。耶万の男は許さない! 生まれたことを悔いるまで、死にたくなるまで追い詰める。
きっと迎えに行くよ。だから、もう少し待って。
この山を登れば、いる。
大石の男は強い。死ぬもんか。どんなに苦しくても、痛くても耐える。打たれようが叩かれようが、耐えられる。
この大きな体は、女を守るために。この強い心は、女を守るために。どんな事でも遣り抜く。それが大石の男さ。
「スッゲェ。何だ、ココ。」
田んぼ、田んぼ、田んぼ。水を湛えた田んぼが、アッチにもコッチにも。
向こうに見えるのは、畑か? その奥に森。森から水がドバドバ流れ込んで、日に当たって輝いている。
こんなに豊かな国、見たコト無い。大きな川沿い、低い山の上。
山裾の地、だったか。飯田しか見てナイけど、豊かなのはコッチだ。風見め。知っていて、黙ってたな。山裾の地を耶万に攻めさせて、この地を奪う気だ。
風見と組んだ早稲も、噛んでいる。そうだ、そうに違い無い。
クッソォ。させるか! サッサとミカを見つけて、連れ立って行かなきゃ。オレ一人じゃ、何も出来ない。
グゥ。
・・・・・・腹、減った。
家の中から、美味そうな匂い。押し入って奪うか。
いや待てマズイ。オレは子、弱い。女一人なら、どうにでも。けど家に、一人で居るワケない。誰か居る、他にも居る。
ん? 何だ。
あぁ、日が暮れた。真っ暗だ。困ったな、どうしよう。ココはオトナシク、子の力を使うか。
ハァ。オレ子だけど、大きいんだよ。大石の子は皆、大きい。他から見れば大人。使えねぇ。子なのに、子の力をさ。
「こんばんは。大石のクベさん、ですね?」
「ウッメェェ。」
ガツガツと、貪り食らうクベ。
「お口に合って、よかった。」
姉さんには負けるけど、ナカナカ美しい娘だな。
「おかわり。」
右手に匙を持ったまま、左手で椀を出す。頬に二三粒、飯を付けて。
先ずは腹拵え。それから、流山の長に会う。
これだけの国だ、腹黒いヤツに違い無い。耶万の大王と同じなら隙を伺い、耶万の夢をクレテヤル。
ほんの少しなら、良い心地になる。弱みを見つけて、スッと付け込む。そうすれば思い通り。ククッ。ミカ、ヤツの事だ。先に会ってイロイロ、仕込んだハズ。
それにしても、大きな家だな。こんなに居たんじゃ盛れない。何奴も此奴も、強そうだ。
狩り人か樵、いや兵か。これだけの国だ。兵を持っていても、オカシク無い。あの風見にも居るんだし。
アッ、来た。ココは一先ず、平伏そう。
「流山の長、悪意だ。」