7-103 だって、狐だモン
「長、宜しいのですか。」
目をギラつかせ、ミカが問う。それからユックリ、切り出した。
飯田に買われ、耶万から運ばれた奴婢たち。その中に一人、使える男の子が。
名を、クベ。耶万の西にあった、大石の男です。体つきが良く、目付きは鋭い。女は多く産め、男は兵に。
姉と妹が囚われ、大石で励んでいます。
クベは奪い返そうと、企んでいます。幼く足りないので、操りやすい。役に立ちますよ、クベは。
ドサクサに紛れて、逃げ出したでしょう。きっと今ごろ奪った舟で、こちらへ向かっています。
雲井の裁きで、東から来た事が知られました。東に潜んでいる事も、知られました。だから南を目指します。居るんです、南にも。この山、流山の南に。
「詳しく聞こう。」
「ハイッ。」
南から曲川を上がった先には、大きな滝があります。それを越えなければ、北の地に着きません。
だから上がりきる前、西横から流れる川に入ります。暫く進むと、気持ち悪い泉に。ボコボコというか、キェイキェイというか、そんな音が聞こえる泉です。
真っ直ぐ北へ歩くと、泡の出る泉に出ます。
そこから流れる川を下ると、水が吸い込まれる何かに出ます。何と言うか、滝壺の無い滝壺。どこへも流れず、水が消えるんです。そこから谷沿いを、北へ。
暫く歩くと、居ます。耶万から送られた兵が。
目がイッチャッテますが、強いです。『耶万の夢』とか言う薬で、痛みも恐れも感じない。そんな兵が控えています。
「嫌呂さん。」
「何だい、悪鬼。」
流山にて妖狐たち。人を化かして連れ回し、大木の洞に閉じ込めた。妖の術を使えば、チョチョイのチョイ。
流山は閉ざされているので、中つ国からは入れない。だから他からヒョイっと、妖怪の墓場へ。しかし二妖は、そうしなかった。
保ち隠、豊がコワイから。
「蛇神へ、御知らせしよう。」
良い妖怪を目指す悪鬼。コンと胸を張り、ニコッ。
「隠の世は今、バタバタしてるよ。」
同じく、良い妖怪を目指す嫌呂。モフンと尾を振る。
「そっか。でも黙っていたら、毟られるヨ。」
嫌呂の尾を見つめ、ポツリ。
「それは、嫌だなぁ。」
尾を抱きしめて、涙目。
話し合いの末、良山へ。良山には、大実社がある。蛇神にお会い出来なくても、言伝を頼めるハズ。
トントンと話が進めば、良山から隠の世へ入れる。
隠神なら、御気付きだろう。でも、それでも御伝えしよう。知ってしまったから。聞き出せたから。
黙っていて何があれば、毟られる。モフモフ無しでは眠れない。だって、狐だモン。
コンと一飛び、タッタと駆ける。暫くしてキキィィ。揃って、ピタッ。
「アッ。」
「来た。」
見つめ合い、頷く。
ミカの言った通り、クベが流山に入った。