表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
早稲編
46/1623

3-14 葬送

見送ると、まっすぐ家に戻った。


「シゲ、シゲ。」


声をかけても、ゆすっても起きない。とても穏やかな顔をして、眠っている。


「このまま、寝かせておこう。きっと夢を見ているんだ。とても、とても良い夢を。」



セツたちがいる家は、白く小さな花で飾られていた。空は晴れ、やわらかい光が降り注いでいる。これから葬ると、言ったわけではない。それでも一人、また一人、夢見草を手に、来てくれる。


セツは、優しい娘だった。おなかをすかせた子に、そっと団子を差し出し、頭を撫でた。さみしくて泣く子に、そっと声をかけ、抱きしめた。熱に魘される子には、親が戻るまで、そばにいた。セツは何も悪くない。それなのに苦しんで、苦しんで、苦しみつづけて、死んだ。



「送ろう。」


そう言うと、持ってきた手火たひに火を点じ、ノリが家に入った。中からバチバチと聞こえはじめ、出て来た。頬には、涙のあとが。


「ありがとう。」


誰かが呟く。すると、セツの家が炎に包まれた。夢見草が、雪のようにフワリと舞い、空へ。




「兄い、兄い。」


ああ、みんな。待っておくれ。


「シゲ、ありがとう。」


ああ、父さん、母さん。待って!


「兄い、シゲ兄い。」


セツ。お願いだ、一人にしないで!オレも連れて行っておくれ。


「生きて、兄い。みんなの分まで。」


そんな。オレは、セツがいたから、生きられたんだ。一人じゃ、生きていられない。


「生きて、シゲ。私たちの分まで。」


そんな。父さん、母さん。守れなくて、ごめんなさい。許して! 置いていかないで!


「こっちに来るの、早いよ。シゲ伯父さん。」


ああ、おまえたち。伯父さんと、呼んでくれるのかい?


「ねえ、生きてよ。」


伯父さんは、弱いんだ。一人じゃ、生きられない。


「一人じゃないわ。ノリさんたちが、いるじゃない。」


そうだね。でも、セツがいない。


「見守ってる。みんなで、ずっと、見守ってるわ。」




体が重い。クラクラする。オレは、生きているのか? そうか、残されたのか。


どれくらい眠っていたんだろう。




「シゲ、粥をつくったよ。食べられそうかい。」


ああ、ノリ。世話をかけるね。


「鳥の卵を入れたんだ。おいしいよ。」


ああ、カズ。わざわざ取りにいって、くれたのか。


「シゲ、よかった。よかった。」


ああ、コタ。そんなに泣かないで。


「ありがとう。」


みんな、みんな、ありがとう。そうだ、そうだな、セツ。オレは一人じゃない。一人じゃない。




枕元に白いものが置いてあった。それは社で使われる、白い布に包まれていた。


「これは。」


「髪だよ。長いのがセツ、短いのが、子らのさ。」


ノリは嵐の後、花を手向けに、セツの家へ行った。その時、髪をひと房づつ、傷つけないように、そっと切って、布で包んでいた。



「シゲが目を覚ますまで、待とうかとも思った。けど、痛みが早くてね。ごめん。」


そうか、そうだったんだ。


「みんなで送ったよ。残った骨は器に入れて。ほら、ここにある。」


そうか、骨まで拾ってくれたのか。



「ありがとう、ありがとう、ほんとうに、ほんとうに、ありがとう。」


早稲編でした。


釜戸社編へ続きます。お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ