7-102 どうする。どうする、どうしよう!
加津のミカは飯田の舟を奪い、西川から鮎川。底なしの湖から、暴れ川を下った。『まず風見、それから早稲』と、呟きながら。
ふと考え直す。このまま風見へ行き、誰に会う。奴婢の話なんて聞くのか、と。
川の縁に寄り、舟を捨てた。
大きな川沿い、低い山。何の鳥か分からないが、大きな鳥が飛んでいた。きっと誰か、住んでいる。
食べ物や着る物を奪って、飯田に戻ろう。新しい長が決まるまで、時が要る。直ぐに決まらない。
長に連なるとか言っていた、あの男なら。
覚えてろ、覚えてろよ! オレは終われない。ヤッテやる。グフ、プクク。餌を与えて溺れさせ、使い捨てる。耶万さえ滅べば、それで。
ミカは知らない。流山には、里も村も無い事を。
「飯田で、何を得た。」
「こちらの誰も知らない、アレやコレ。」
流山の長に問われ、勿体振る。
「で、何を得た。」
形を見る限り豊か。それに、多く囲っている。好きだねぇ、ドコ触ってんだよ。
奴婢とはいえ、オレの目の前で揉むか? 胸。頬を赤らめて、甘い声でさ。『あっ』とか『あんっ』とか、目の遣り場に困る。
山の頂を切り開いて、これだけの国。よく作れたな。田や畑、家。大きな倉が、幾つも並んでいた。擦れ違った兵ども、どれも強そうで使えそう。
「摘まみ出せ。」
「ハッ。」
ゲッ、忍びがイヤガッタ。
「言う、言います。」
・・・・・・ハァ。
暴れ川の上に、湖。大きな川沿いに、豊かな地。知ってる、それくらい。飯田は戦好き、女好き。知ってる、それも。
良村の長は狩り人で、強い。それが何だ。良村の犬も強い。だから何だ。
雲井の裁き、闇の力? 人が消えた、飲み込まれた。霧雲山が動いた。飯田の長が、引き摺り込まれた。そうか、で、何だ。
「ですから、北の地は大荒れ。攻めるなら今です。」
「耶万に言え。流山を巻き込むな。」
フン、腰抜け。攻めないなら、兵を出せ。オレが率いて、耶万を滅ぼす。
しかし困った。全く、乗ってこない。風見、早稲に持ち込むか。いや、それは。ヨシ、この女好きの寝込みを襲って、従わせよう。
「その首飾り、加津だな。耶万に滅ぼされたのは、ずっと前。」
「なっ。」
・・・・・・え、何だよ。コソコソ話、しやがって。
「オマエが乗り捨てたのは、飯田の舟。忍びが確かめた。」
ばれた。いや、まだだ。
耶万の奴婢を、飯田の国長が買った。戦で人が減り、困っているからな。手っ取り早く増やすため、買ったんだろう。
で、飯田で何を見た。雲井の裁き、どうなった。次の長は誰だ。死にたくなければ、全て言え。ハナとは、どんな娘だ。どんな力を持つ。祝か、継ぐ子か。
「逃げ出した奴婢が、見聞きした事など。」
「おっ、お待ちください。」
このままでは殺される。何とかして、ここを離れよう。急ぐから馬を。舟はクソッ、くれてやる。
さて、どうする。・・・・・・どうしよう!