7-100 トップの覚悟
次に、山守社。
山守と祝辺が、やっと動いた。飯田の国長を生きたまま、闇の力で引き込んだ。
神成山、霧雲山、畏れ山。三つの山が統べる地では、決して受け入れられぬモノを、許し無く持ち込んだ。許しを求めても許されぬ、認められぬ。そういうモノだ。
奴婢、そう呼ぶ。
中つ国では、人が人を賤しい身だと、他より低い身だと定めた。分け隔て、劣った物として扱う。人では無く、物。
やまと。いや、人の世では当たり前。珍しくも何とも無い。海を渡って伝わったソレを、アッサリ取り入れた。同じ、人なのに。
裁きにより、飯田の国長ボクが犯した罪、全て明らかに。直ぐ、使いが出された。霧雲山の統べる地だけで無く、他の地へも。
やまと中つ国で今、闇が広がる地は三つ。鎮の西国、真中の七国。中の東国に在る、大貝山の統べる地、耶万。
鎮と真中は、治まりつつ有る。しかし耶万は乱れ、治まらぬ。
耶万神は禍津日神。直日神に任せよう。
しかし広がった闇には、妖怪が関わって居る。死んだ、いや殺された耶万の祝。その魂が闇に飲まれ、溢れた。
耶万の隠たちは、堕ちた。
闇に引き摺り込まれ、填まり込み、戻れぬ。我を忘れて闇に溺れ、恨み辛みを募らせ、牙を剝く。隠は隠。時は掛かるが、堕ちても這い上がる。戻れる。
隠の世は隠、人の世は人。そう決め治め、守り続けた。これからも守る、守り抜く。根の国からは、見守るようにと。何があれば、こちらで動くと。
よって、国つ神から助けを求められても、動かぬ。天つ神なら、考える。考えるが、考えるだけ。動かぬ。それで良い、それが良いと思う。
「ここまで、良いか。」
集まった隠たちが、見合って頷く。人の事は人、隠の事は隠。中つ国の、お隣サン。関わるのは、祝の力を持つ人だけ。
姿を見せない、話さない。妖怪が悪さすれば、助ける。悪さする前に止める。だから困った事になったら、言ってくれ。
そうして暮らしてきた。和やかに、穏やかに。ずっとずっと末永く、この幸せを守りたい。そのために、出来る事をする。
隠の世に流れる闇は、広がる前に清められる。隠神、若しくは愛し子によって。
この度の闇、深く濃い。しかし蛇神の愛し子には、強い力が有る。清めと守り、二つの力。
隠の世が乱れる前に、サッと清められるだろう。しかし、元を絶たねば・・・・・・。
「隠の世は、我が守る。これまで通り力を合わせ、支え合い、幸せに暮らそう。」
はじまりの隠神、大蛇。ドヤ顔で宣言。
「ヲォォォォォォォ!」
隠たち、大興奮。隠の世は安泰だネ。
これから起こる事は、先読の力を持つ祝が見る。見て、良い道を選ぶ。先見の力を持つ祝が、それを支える。他の祝は、出来る事をして支える。
愚かな長など、消せば良い。忍びが動く。社を通せば、使わしめも動ける。人の世の事は、人の世に任せる。心を決め、腹を括れば叶うだろう。
この命に換えても、隠の世を守り抜く。それが我の務め。