7-99 隠の世のため、人のため
「流よ。オヌシまさか。」
「隠でも妖怪でも、己を守る。違いますかニャ?」
あぁ、そうだ。こういう猫だ、流は。でも、まぁ良い。熊神と共に、動いて貰おう。
人の世では無く、隠の世。それも、和山社へ。裏切れば死ぬと解って、ココまで来た。
「流よ。熊神と共に、南の人を追い立てよ。」
「はい。」
ニャッと笑って、タッ。人の世へ飛び出し、神成山を目指す。本気を出した大妖怪、早い早い。
「では皆、聞いてくれ。」
はじまりの隠神、大蛇。隠の世を守るため、語る。
中つ国。中の東国において、霧雲山が動いた。裁きは二つ。山守社と、雲井社。
まず、雲井社。
雲井の裁きは、禰宜。闇の力により、飯田社にて裁く。南に有った国、加津の者。ミカと名乗る男を一度、放った。許したのでは無く、泳がせるため。
転がるように走り去り、西川から鮎川。底なしの湖から、暴れ川。飯田の舟を奪い、逃げた。
南から来たダケのコトは有る。櫂の使いよう、手慣れたモノよ。スイスイ漕いで下る。『まず風見、それから早稲』と、呟きながら。
早稲と風見は、雲井の力を思い知った。何かあれば、社を通して知らせる。それを禰宜が詳しく、我らへ。
飯田で執り行われた裁きに、加える事が有る。隣の茅野に引き取られた祝の子、タエ。先読の力で、末を見た。
この度の事、捨て置けば戦になる。それを見たタエが、力を使って択び選んだ。それを良村の子。我の愛し子、マルに伝えた。
マルは良村に引き取られた、清めと守りの力を持つ子。幼子ながら、強い力を持つ。闇堕ちした魂を、清められるホド。
飯田の社の司が、ミカに襲われた。それを助けたのが良村の長シゲと、飼い犬シゲコ。一人と一匹が飯田を離れ、マルの待つ茅野に着いた。
タエはマルに聞かせた話を、シゲにも話そうとした。子らを見て、気付いたのだろう。茅野の社の司、村長と狩頭も呼び、共に聞く。
飯田の村、茅野の村。良村はどちらとも、付き合っている。飯田の国長はアレだが、他はシッカリ者。我らが動かずとも、力を合わせて動くだろう。
良村の在る良山は、曲川へ流れる崖の川に近い。初めにブツカル。上木、樫と結び、備え整えた。毒嵓の動きが気になるが、今は見守る。
流山を治める梟神の調べでは、夜鳴泉の辺り。南の兵が闇を纏い、集まった。日に日に闇が濃く深くなり、水と共に南へ。それが流れ流れて、曲川から海へ。
海神は、海を閉じ為さった。闇は海面を漂い、根の国へ。この度の全て、伊弉冉尊は御存知。とはいえ、このままでは。
よって嵓社と、楢守社。双樫社へも、使いを出した。
嵓社の祝には水、楢守と双樫の祝には木。それぞれの声が聞こえ、話せる。力添えを頼み、守れる。
嵓、楢守、双。三つの隠れ里が結ぶよう、仕向けた。
伝えたのはシゲだが、長の言の葉だ。双の狩頭から、祝へ伝わった。そして三つの里が結び、動き出す。
三柱が使わしめを、良村へ。和山から離れられぬと伝え、夜まで大実社に。
「ここまでは、良いか?」