7-97 畏る可し
「申し上げます!」
隠の世、和山社。使い隠が、ゾクゾク戻る。
何と愚かな。戦なんぞ仕掛けて、どうする。命は一つ、死ねば終わり。
・・・・・・ハァ。
サッサと終わらせて、帰りたい。大蛇社。暖かく、心地良い。狭いが構わん。マルが心を込めて、作ってくれた。それが嬉しい。
良村の子が供えてくれる、アレやコレ。泥団子には驚いたが、ピカピカだった。
「蛇神、蛇神。」
ハッ、何だ!
「熊神より、違い無いと。」
「そうか。神成山の統べる、西の果てに。」
渦風神は、血の気の多い山神。使わしめ流は、人嫌い。宥めず嗾け関わらず、傍らで見ているダケ。そういうネコだ、アレは。
海の向こうで嬲り殺され、妖怪に。人を甚振り、食い散らした。それから百年。『飽きた』と言い残し、やまとへ。
鎮の西国で大暴れ。が、直ぐ飽きた。中の西国に渡り、出雲へ。大国主神に諭され、尾をタシタシ。
『高く付くぜ』と言い残し、飛び出した。建御名方神の御坐す、諏訪社を目指す。ハッキリ言おう。カッコ悪い!
『父チャンのツケ、払いな』と、喧嘩を吹っ掛けた流。アッサリ負けた。右ストレートで、飛ばされたのだ。『そんニャァァァ』と叫びながら、社の外へ。
曲線を描きながら、神成山にズボッ。
渦風神は、猫が好き。
艶やかな毛並み、撓う体。気紛れで移り気なのに、憎めない。猫は液体、もうメロメロ。そんな神が山に刺さった猫を、捨て置くワケが無い。
知らない社で気が付き、怯える。勝てニャイ、負ける。皮を剥がされ、焼かれる。因幡の白兎のように!
逃げよう、帰ろう、海を越えて。
然うは問屋が卸さない。御目を輝かせ、瞬間移動! 狙ったニャンコを、心行くまでモフり遊ばす。
見事な手捌きに流、陥落。もぉぉ、好きにシテ。ゴロゴロにゃぁん、スリスリ。
・・・・・・ハッ!
このアタイを手玉に取るとは。やまとの神、畏る可し。お仕えよう! 流は望んで、使わしめになった。
「申し上げます。神成山より、渦風神の使わしめ、流さま。転がるように参られ、御目通りをと。」
シュッと、使い蛇が平伏す。
「許す。」
心の中で毒突く。『こっの忙しい時に、何だ! 良山のマタタビが欲しいとか、言うなよ』と。
控え目に言って、大荒れ。
「神成山より流、参りました。御願い申し上げます。南から来た賊の討伐。この流に、御任せください。一匹残らず血祭りに上げ、霧雲山の皆さまへ。」
??? 居合わせた隠たち、パチクリ。
流は大陸出身。彼の地では出陣の際、生け贄を殺し、その血をもって軍神を祭る。
血祭りとは何か、知った隠たちは思った。その儘じゃん! と。そして叫ぶ。『要らねェよ。』
大蛇は蜷局を巻き、溜息。流は妖怪、隠では無い。使わしめが遣らかせば、神諸共。