7-96 言わぬが花
「ほぉ? 悪く無いと。」
霧雲山、山守社。社の司が問う。
「はい。私はハナを迎え、共に生きようと。それで。」
飯田の国長だった、ボクが答える。
「白白しい。」
祝辺の、人の守がポツリ。
霧雲山が、罪人を呼び寄せた。隠神に頼み込み、闇の力を使って。
ボクは死んだ。魂だけ、連れてこられた。骸は、妖怪の墓場へポイッ。魂を体から引き剥がしたのは、助かると思わせるため。
「良いのか? 帰りたくはナイのか?」
アルカイク・スマイルで囁く、山守神の使わしめ。シズエに掛かれば、人なんてイチコロ。
申し上げます。ハナを思うまま、組み敷きたい。手に入れて、ガンガン迫って惚れさせたい。そう思いました。断わられても諦めず、言い寄りました。
しかし、思うようには・・・・・・。カタのヤツ! あ、社の司です。飯田社の。親無しのハナを引き取り、共に暮らしています。
カタに言われました。『ハナを嫁に出す気は無い。諦めてくれ』と。諦められません! あの肌、あの胸、あの尻。もぉぉ、タマラン。
言われますよ、『長の器じゃ無い』とか『女の敵だ』とか。『イチが生きていれば、良い長に』なんて言うヤツ、居ましたね。
死んだヤツと比べるな。オレはオレだって、話ですよ。違いますか? まぁ、弟はアレです。モテました。出来だって良かった。
『狩り人になりたい』なんて、言い出してね。愚かでしょう? 長の子なんだから、長を目指せよ。死にましたけど。良山でアッサリくたばった、出来損ないです。ハハハッ。
ハナはね、イチを好いていた。見りゃ分かります。あの美しい娘に、好かれたんですよ。イチが。イチなんかが。許せません。
だから唆した。
オレなら、父さん兄さんの役に立てる。イチは、狩り人の家に入り浸り。アレは十二。大人ですよ、お・と・な。
長の倅が、戦に出るんです。尻込みするのを責められます。『十二の男が出るのに、オマエは』ってね。
良村との戦に敗れ、みぃんな死にました。やっと、ハナを好きに出来る。嬉しくてね。笑いが止まらなかった。
兄さんに先を越されましたが、オレも。
フフッ、ヨカッタァァ。とくりゃ、もっと。そう思うのが人です。なのにカタが妨げる。殺すしか、アリマセンよね?
ピキッ、ピキピキッ。顳顬が動く。
いつまで続く? 殴ってイイよね。いや、蹴り倒そう。
隠と妖怪が、熱り立つ。
「オイ! 加津のミカとは、いつ会った。どこで、どんな話をした。」
隠の守に囲まれ、ガタガタ震えるボク。忘れちゃイケナイ、裁きだヨ。
「帰りたいよね? 話そうか。」
シズエに言われ、コクコク。
骸へ戻れますヨ。死んでるから、動けないケドねっ!