7-94 タエが見た、未来
「マル、あのね。」
「なぁに、タエ。」
マルの清めと守りの力で、タエを追い詰めていた悪いモノが、スッと消えた。タエには、先読の力が有る。先見の力との違いは、選べるかどうか。
先見は見るだけ。見た事を知らせ、備える。先読は見て、そこから戻れる。少しでも良い道を択んで選んで、先を読む。
良い事なら楽しい。けれど見るのは、悪い事ばかり。
人が死ぬ、殺される。見るのは、そんなの。それも繰り返し、繰り返し。幾度も骸を見れば、誰だって狂う。心が乱れ乱れて、壊れてしまう。
心に溜まったモヤモヤは、タエを蝕み歪める。北山に囚われていた時は、マルが側にいた。叫び出す前に清められ、守られていた。
マルは良村に、タエは茅野に引き取られた。ミヨとタマは、玉置に。宝玉社に引き取られ、幸せに暮らしている。
お腹いっぱい食べられる。柔らかい衣を着て、暖かい家で眠れる。痛い事も嫌な事も、何も無い。とっても幸せ。なのに、タエは苦しみ悶える。モヤモヤが、タエを蝕み続けた。
マルに会って大泣き。流す涙は多いほど、心を軽くする。抱きしめられ、フワッと包まれる。キラキラ輝く、お日様のような何かに。
清め守られ、良村の団子を食べて、タエはスッカリ元通り。それからポツポツ、話し始める。タエが見た、全てを。
「クゥゥ・・・・・・。」 ソンナコトニ・・・・・・。
タエ、良く耐えたね。ボクなら耐えられないよ。大好きなマルを守るためなら、死ねる。でも、会えなくなるのは嫌だ!
良山は強い。ワンサと来ても、崩れない。守って守って、守り抜く。そういう山さ。良村の人だって、強いよ。動きを見れば分かる。
「だから、ね。嵓の人とは、結んじゃ、イケナイの。忍びが、ね。裏切る、の。」
「そぉなの?」
「そう。でね、他の忍びと、争って。それで、それで。」
忍びの結びは、固い。裏切れば滅ぶ。それでも嵓は裏切り、滅ぼされる。そのドサクサに紛れて、鮎川から兵が押し寄せ、戦が始まる。そうなると手遅れ。
良村の人たちは良山へ戻り、守りながら戦う。上木と樫も同じ。どちらも、山深い隠れ里。見つかる事は無い。
五つの忍びも、戻り備える。忍びは、戦を止めるために動く。戦になれば、何も出来ない。
山裾の地に近いのは、心消だけ。天霧山も南にあるが、離れている。月見山、天立山、星海山。どの山も、霧雲山の北。
山裾の地で戦が始まっても、川田と馬守は守られる。備え整え、保ち続けた強い村。村だからと侮れない。国に出来るのに、しなかった。それだけのコト。
多くの里や村と繋がり、助け合う。食べ物が尽きる事も、矢が尽きる事も、戦の具が足りなくなる事も無い。
山裾の地が落ちても、社は守られる。神はお守りくださる。そう、見守り一択。けれど隠や妖怪は、迷わず動く。
闇に堕ちても、隠は隠。守ると決めた隠ほど、恐ろしいモノは無い。兵から魂を抜き、根の国へ叩き込む。
妖怪たちは兵を化かし、罠へ誘い込む。次から次へ、迷わず落とす。
闇堕ちすれば戻れない。それが妖怪。使わしめが堕ちれば、使える神も妖怪に。だから闇を躱して、隠へ繋ぐ。後は、オ・マ・カ・セ。