7-93 見縊られたモンだな
壊された奴婢たちも、目を剥いた。
あんな目に遭いたくない。壊れた心と魂が、叫ぶ。『助けて、嫌だ!』ガタガタ震えながら、ボロボロ涙を流して。声にならない声で、叫ぶ。
「さぁて、聞こうか。」
ニッタァと笑う、クラ。
耶万に滅ぼされた国の人は皆、奴婢になった。若い男は、戦場へ。若い女は、盛り場へ。子はアチコチへ売られ、嬰児は飼われる。
生き残った年寄りが、囲っただけの建物で。何も感じず考えず、慈しむコト無く、鶏や犬を扱うように飼う。
育った子は売られる。姿形が整っていれば、盛り場へ。そうで無ければ、戦場へ。男は戦い、女は穢され、死ぬ。それが奴婢。国が滅ぶと、そうなる。
ミカもミミも悪く無い。
国が滅んだから、奴婢になった。加津が勝っていれば、幸せに暮らせた。耶万に負けたから、奴婢になった。戦に負けたから、奴婢になった。それだけ。
強いられたのなら、救いようがある。ミミの敵を討つため、攫おうとした。決して許されない、受け入れられない。己で考えミカは、多くの命を奪った。
敵討ちだ、強いられたのでは無い。周りが見えず、考えが及ばず、突き進んだ。北の地が戦場になっても、血の雨が降っても構わない。どうでも良い、関わり無い。
「見縊られたモンだなぁ、この地も。」
裁きに出ていた、隠たちが言う。
中つ国。人の世と隠の世は、隣り合っている。近くに在り、行き来できる。つまり人の世に闇が広がれば、隠の世にも広がってしまう。
日の光が届かない、暗い所。その奥へ進めば、隠の世。隠や妖怪が和やかに暮らす、穏やかな地。
暮らしを脅かすモノなど、受け入れられない。よってアチコチ飛び回り、見つけたアレやコレ。雲井の裁きに持ち込んで、ケリを付ける。
釜戸山は、人のイザコザを収める。人と人との、話し合い。よって釜戸社の裁きは、釜戸山で執り行う。釜戸社の祝が、裁く。
乱雲山は、妖怪のイザコザを収める。国と国との、話し合いも担う。よって、雲井社の裁きは二つ。乱雲山で執り行う裁きと、出向いて執り行う裁き。
乱雲山では、祝が。他では、禰宜が裁く。
出向いて裁くには、ワケが有る。霧雲山の統べる地であれば、乱雲山に呼ぶ。他の山が統べる地となると、話が違ってくる。
人を呼び裁けば、北に豊かな地があると知られる。そうなれば、仕掛けて来る。攻めて来る。
戦になれば、多くの命が奪われる。多くの人が傷つき、倒れる。それを防ぐために、出向くのだ。
雲井社の禰宜は、闇の力を生まれ持つ。
隠や妖怪の力添えで、人なら時の掛かる事も、直ぐに分かる。出向く裁きでは、禰宜が全ての責と科を負う。
裁きが始まる前に、明らかなのだ。証、見た者、聞いた者。全て揃っている。
証は品、見れば分かる。見聞きし伝えるのは人、隠、妖怪。偽れば殺されるので、真しか話せない。つまり、逃げられない。
「飯田のボクが居なくても、裁ける。揃ってるんだよ、何もかも。言え、アライザライ話せ。」
言うもんか。黙っていれば、分からない。コイツには、心の声が聞こえない。そうだろう? 禰宜サン。