7-92 ポッカァァン
飯田社の前は、開けている。そこに丸くて清らかな膜が張られ、ユラユラと隠が集まった。見知った顔ばかり。死んで隠となり、飯田へ。
膜の外からは見えない。誰も慌てず騒がず、いつも通り。もし見えているなら、こちらへ入ろうとするだろう。
祝人や覡が、残らず連れて来た。死んだ長の家に居た、南から来た人たち。ハナを狙った、加津の男。シゲたちに襲い掛かって、死んだ人の魂も。
骸は調べてから、空き家に運んだ。死んだ長の、倅の家だ。ボロボロだが、鳥に啄まれる事は無い。釜戸山か乱雲山から、誰か来るだろう。それまで葬れない。
「さぁて、始めましょう。」
雲井社の禰宜、クラ。
「そうですね。」
飯田の社の司、カタ。
「では、私はこれで。」
飯田社の祝、カク。社へ戻る。
クラとカタが見合い、頷いた。モヤブワッと、闇が広がる。そして・・・・・・。
「殺されたくなければ、従え。」
クラが堂堂と、開廷宣言。カタを含め、集まった人たち。ポッカァァン。
「だぁかぁらぁあ。」
クラの目が、据わってきた。
「でっ、ですから。何も知りません。」
捕らえられた加津の男、ミカ。すっ呆ける。
何だ、コイツ。禰宜だろう? 禰宜だよな。怖いコワイ恐い。言える事なんてナイ。言えば終わる。オレは、敵を討つと決めた。誰にも妨げさせない。
そのために要るんだ。餌が、贄が。良いだろう? 娘一人くらい、寄越せよ。何も知らない娘なら、手を出さない。穢されたんだ。二度も三度も、変わらない。
「なぜ、そう思う。」
カタが手負い猪のような目をして、問う。
「なっ、何が。」
コイツ、気持ち悪い。何が、だと? ミミのために決まってるだろう。他に、何がアルってんだ。
「ミミ? 死んだ、いや。オマエが殺した、思い人か。」
「っな、んで。」
「答えろ。いつ、どこで、誰から、ハナの事を聞いた。」
・・・・・・それは。
「それは?」
コイツ、祝の力が? 祝ってのは、女じゃ・・・・・・。
「答えろ、ミカ。『言えば終わる』と言ったな、何が終わる。壊された娘の末を知っていながら、なぜ同じ事を、他の娘に強いる。」
カタに睨まれ、動けない。
「うん、殺そう。」
笑いながら、クラが言った。
「えっ?」
細くて黒いモヤモヤが、ミカの体を押さえつける。叫ぼうにも、声が出ない。口の中に突っ込まれたモヤモヤが、喉から胸、腹へ。体がブクブク膨れて、はち切れそう。
目を白黒させ、助けを求める。
今更、ジタバタしても遅い。生き身だから、手が掛かる。死ねば騙せないし、偽れない。闇の力を使えば、スンナリ片付く。