7-91 また会おう
山裾の地から南へ流れる川は、三つだけ。その全てが違う。となれば、西か東。
西へは多くの川を、縫うように進む。中には細くて、狭い川も。東へ続いているのは、鮎川。真っ直ぐ繋がっている。
鮎川から蔓川。それから、崖の川。崖の滝から渦の滝。そして、曲川。つまり大きな滝を越えなければ、こちらへ来られない。舟で近づけるのは、渦の滝まで。
渦の滝の、ずっと下。曲川に流れ込む川を、北へ北へ。そう進めば、鮎川沿いか近くまで。そんな川が有るのか。分からないが、無いとは限らない。
滝じゃ無ければ、越えられる。川なら漕いで、沢なら歩いて。そうして鮎川へ出れば、川一つ。西へ西へ、進めば良い。
「その通り。でも、どこに潜んでいるのか。」
西山だけじゃ無い。他にもウジャウジャ、潜んでいる。どれだけ居るのか分からない。コワイよね。南から持ち込まれた、戦の具。鉄の塊。チラッと見た。
加えて、耶万の夢。
人を人で無くする、危ないヤツ。そんなの使われちゃぁ、死ぬよ。バッタバッタ切られて、血の雨が降る。冬の戦ドコロじゃ無い。
だから、捕まえた南の男。裁きに掛ける。乱雲山まで運ばず、ココでね。
雲井の祝から、任されたんだ。飯田の隠にも出てもらう。『飯田を守るためなら、喜んで出る』って。それはそれは、張り切って。
「飯田神の、御許しを得ている。だから、力を貸して。カタの力が要るんだ。」
「私に出来る事なら、喜んで。」
そこまで言われれば、断われない。
「シゲ、心の声で話せ。」
はい。
「隠れて居るのは隣、神成山の統べる地。渦風社が動いた。」
耶万は他にも、隠していると思います。
「それぞれの地を統べる隠神が今、使い隠を遣り、隅隅まで探させて居る。」
では、この地も。
「国つ神はノンビリじゃ。放っておけば、闇が流れ込む。隠の世を守るため、住まう隠や妖怪を守るため、動くと決まった。」
オロチ様も、ですか?
「我は、はじまりの隠神。暫く、和山社へ戻る。使い隠を、良村へ向かわせた。日が暮れる前に、マルを連れて戻れ。タエが怯えるようなら、預かれば良い。」
茅野社が、許すでしょうか。
「茅野神より、許しを得た。案ずる事は無い。」
「長、この度のアレ。裁かれ無いヨ。霧雲山から釜戸山、乱雲山へも、伝えられたコトさ。落ち着いたら、話を聞かれるかもネ。」
ニコニコしながら、クラ。
「それは良かった。で、シゲ。裁きには。」
カタが問う。
「出ない。帰るよ、子を待たせている。」
タエと仲良く、待っている。そろそろ戻らないと、気を揉む。マルコも付いている、案ずる事は無い。
オロチ様が、社へ戻られた。つまり、マルは守られている。きっと、お守りくださる。茅野にはヤノさま、社憑きの狐も多い。前にそう、伺った。
「そうか。また会おう」
良村は、南の端を任されている。引き止められない。知りたい事は教わった。何とか、なるだろう。
「あぁ。また会おう。」
オロチ様の仰せだ。急ごう。