7-90 らしく無いって、言われるよ
「なぁカタ。オカシイと思わないか?」
「ん?」
「加津の男さ。ハナの事、誰から聞いた?」
冬の戦が終わって、釜戸山での話し合い。裁きは作付けが終わるまで、延ばされた。長も倅も、見張られていたハズ。終わって直ぐ、釜戸山へ送られた。
村の人は悔いた。だから、離れなかった。
男を怖がって、子でも怖がって、外へ出られなかった。だよな? 大婆さまの家で、女たちに守られていた、十一の子。そんな娘の話を、誰から聞いた。誰が話した。
村の人なら話さない。
死んだ祝人も祝女も、慕われていた。その娘を傷つけるか? 深く深く傷ついた娘を、もっと傷つける。そんな人が、飯田に?
「・・・・・・そう、だな。」
確かに、シゲの言う通り。
「オレのカンだがな。南から送られた人、どっか他所に潜んでいる。その中からボクが選んで、飯田に入れた。」
「まっ、待ってくれ。それじゃぁ、もう。」
カタ、真っ青。
「良いカンしてるネ。はじめまして、良村の長。乱雲山、雲井社。禰宜のクラです。」
「はじめまして。・・・・・・どちらに?」
社にいる人はカタ、カク、オレの三人。禰宜って事は、人。人なら見えるハズなのに、姿が見えない。
「これで、どうかな。」
ブワッと現れ、ニコッ。
改めまして。雲井の禰宜、クラです。良村の長、大当たり。狩り人のカンってのは、スゴイね。
私には闇の力。闇を纏い、見えない全てを歪める力が有る。持って生まれた。そういう子は、隠の世で育つ。闇の力を持っていた隠に、育てられる。
父にも母にも、闇の力なんて無い。土の声が聞こえる祝人と、水の声が聞こえる祝女。兄と妹がいるが、闇の力を持つのは、私だけ。
妖怪に囲まれて育ったからか、他の人とは違うんだ。言の葉も『禰宜らしく無い』って、言われるよ。私の話は、これくらいで。
「南から来た人が、他所に潜んでいます。」
ニコッ。
「あの、クラさま。」
「何でしょう、カタさま。」
飯田に潜んでいた人は、分かっているだけで二十と四人。うち、子は九人。舟に乗れるのは、三人くらい。
子は二人で一人と考え、五人としましょう。十、一、四、五。合わせて二十で七隻、要ります。
そんなにツラツラ近づけば、釣り人や狩り人に見つかります。なのに見たなんて話、聞いていません。
西川は少なくても、鮎川は違います。多くの舟が、行き交います。
日が昇れば、誰かの目に。朝、早くても同じ。となると夜ですが、無いでしょう。
危な過ぎます。どんなに優れた水手でも、夜は漕げません。どちらも流れが速く、竿を取られます。
「霧雲山の統べる地に引き込んだのは、飯田の長、ボクさ。」
「クラさま。南の人たちは、鮎川から?」
「長はナゼ、そう思うのかな。」
暴れ川と曲川は、無い。残るは鳥の川。しかし、それも無い。
早稲から越して来た時、擦れ違う事は無かった。それでも目立っていた。手を振られたよ。
十一隻も七隻も、そう変わらない。ゾロゾロノロノロ、あの流れに逆らって進むんだ。時が掛かるし、見つかる。




