7-89 なぜ、ソレを
死んだのは南の人。飯田の国長が奴婢を、いっぱい連れ帰った。
・・・・・・信じられない。
霧雲山の統べる地で、決して許されない事。それを長が、国長が。
「エイ。祝辺より、使いが。」
釜戸神の使わしめ、ポコ。難しい顔をしている祝に、ソッと差し入れ。
「はい。お会いします。」
ニコッ。
「カクさま。お知らせ、ありがとうございました。」
「どういたしまして。」
「では、これにて。」
「はい。さようなら。」
通信、終了。
「ポコさま。お芋、いただきますっ。」
ニコニコッ。
「フム。ゆっくり、おあがり。」
「はい。」
モグモグ、ゴックン。うぅんっ、幸せ。
良かった。蛇神が、飯田に御坐した。
山越烏も、平良の烏も、鷲の目もシッカリ見ていた。直ぐ終わる。来てもらって、話を聞いて。出で湯でノンビリ。そうだ、娘さんたちも。
それにしても、酷い話ね。
心を壊され、魂まで傷つけられた娘。穢され、死を願う女の子。心を殺して、壊れた男の子。みんな、滅んだ国の人。
早稲のヌエ、カツ。その裁きで、早稲を調べた、あの時。神成山、霧雲山、畏れ山の統べる地の人は、助け出された。
他の人たちは、助けられなかった。
具志古、津久間、大貝山。統べる地の人が苦しんでいるのに、何も。戦で負けて、滅ぼされて、それで・・・・・・。
早稲は人を買わない。攫っても、奴婢にしない。悪い村だけど、そこだけは良いと思う。
解らない。なぜ人を? 解らない。なぜ、そんな事が出来るの?
稲を育てるようになって、豊かになった。食べ物に困らなくなった。とっても、良い事よ。
なのに、なのに、どうして?
戦が始まった。欲に塗れた人たちが、奪って奪って、奪い尽くした。食べ物、着る物、水。住む家、里、村、国。人まで奪って、奴婢にした。
中の東国。神成山、霧雲山、畏れ山の統べる地では、許されない。認めない。でも、珍しいんですって。そう、ブラン様が。
他の地では、当たり前。信じられない。
されて嫌な事は、しちゃイケマセン。言われて嫌な事は、言ってはイケマセン。子でも知ってるわ。なのに、なのに。
「お待たせしました。」
祝辺からの使いは、隠の守でした。
「いきなり押しかけ、申し訳ありません。」
急ぎ、でしたので。
「お話、伺います。」
ニコッ。
「海の向こうから、悪いモノが来た。解らぬ。なぜソレを取り入れた?」
釜戸神、使わしめに問う。
「私にも、解りません。」
ポコも狸の親である。もし。そう考えただけで、ゾッとする。