7-88 だって、そうでしょう?
社で祈りを捧げていた時、声が聞こえた。『外へ出てはイケナイ』と。
暫くして『ヤッチマエェェ』『ヲォォォォ』とまぁ、勇ましい声が。止めてよ、ココ社だヨ。
カンッ、カンッと、鉄を当てる音がした。
土から、バタッと倒れる音が聞こえる。犬かな? 軽やかな足音も。イイなぁ、モフモフしたい。アレ、この感じ。隠神?
『終わった。見定め、知らせよ』そう言われ、外へ。
良村の長、強いなぁ。顔の色一つ変えず、犬の口を拭って。慣れているネ。ってか、ヒエェ。蛇神が御坐すぅ。
全て聞いた。あの長、とんでもナイ事しやがった。
山越と平良。霧雲山の烏が二羽、ジッと見ている。というコトは、御覧遊ばした。山守神と、祝辺の守が。
良村の長も犬も、裁かれる事は無い。
社の司は戦えない。戦えない人を守りながら、殺さないように戦う? いっくら強くても、ねぇ。だから殺しても、罪に問われない。
殺さなきゃ、死んでた。
殺す気マンマンじゃん、コイツら。だから死んだ。それにしてもマァ、スンゴイね。鉄の塊だよ、どれも。
良村の長が持ってる剣も、鉄が多い。けど、木と竹が添えてある。死んだヤツらのは、マンマ鉄。
良かったね、伯父さんって、オットット。シッカリ見ましょう、聞きましょう。釜戸の祝に、知らせましょう。
霧雲山はきっと、終わってから知らせる。それでは遅い。飯田で何が起こって、どうなったのか。釜戸山へ出向いて、話すだろうけどサ。その前に。
んん? 鷲の目。伯父さん、ツイてるぅ。証、見た者、聞いた者。全て揃った、揃ったヨ。
「エイさま。飯田の祝、カクです。急ぎ、御伝えしたい事が。」
飯田社の祝には、大地の声が聞こえる。土の力を借りれば、離れていても伝えられる。祝となら、話す事が出来る。
「・・・・・・待たれよ。こちらから。」
裁判中でした。
裁判は進み、判決。斯く斯く然然。よって有罪! 閉廷します。
エイには、火の声が聞こえる。山の力を借りれば、話せるのだ。土の声が聞こえる祝と。
「カクさま。今、宜しいでしょうか。」
お待たせしました、エイです。裁き、終わりました。
「はい。お疲れのトコロ、申し訳ありません。」
若いが、シッカリしている。
耶万ねぇ。
大貝山の統べる地にある、大国。戦好きで、人で無くする薬を使う。風見から『北に豊かな地がある』と聞き、動かした。滅ぼした国の、生き残りを。
飯田の社の司を守るため、良村の長が戦った。飼い犬も戦った。それで殺した。戦うしか無くて、殺した。殺すのは罪。殺せば、罪に問われる。
けれど悪くない。殺さなければ、殺されていた。証、見た者、聞いた者。全て揃っている。話は聞くけど、裁かない。
だって、そうでしょう? 襲われたのよ。身を守るため戦い、殺した。それが罪なら、守れない。
襲われたら、諦めなさい。諦めて、殺されなさい。殺されると分かっても、戦ってはイケマセン。何があっても、どんな時も、守らず死になさい?
そんなのオカシイ。命は一つ、守らなきゃ。だからシゲには、罪が無い。
罪に問われる? 有り得ない! 霧雲山に何を言われても、聞かない。人と人の裁きを行うのは、釜戸社。人と国なら、雲井社。そう決まってるの。