7-87 何ですってぇぇ!
蔦の川、白縫川、崖の川。どの川も、良山から近い。
曲川を守るのは良村だ。いろいろ備え、進めている。イザって時は、天霧山が動く。
耶万に限らず、好きにさせない。戦なんて嫌いだ。和やかに、穏やかに暮らしたい。
子は宝だ。何が何でも、守り抜く。オレたちと同じ思いなんか、させない。
真っ直ぐスクスク育ち、幸せに。残されたオレたちに出来る、たった一つの事さ。
決して負けられない。始まる前に決まる、それが戦。渦の滝は越えさせない。噴き出岩で迎え、討つ。
「飯田に、出来る事は。」
カタには戦えない。そんな力も無い。
「祝の力を借りたい。」
飯田の祝には、大地の声が聞こえる。
「解りました。」
祝、ニコッと参上。
「カク!」
「はい。何ですか? 伯父さん。」
「お久しぶりです。コンさま。」
乱雲山を巡回中、声を掛けられた。
「これはヒオさま。お久しぶりです。」
バッタリ顔を合わせた狐たち。キャッキャウフフと、雲井社へ。
「なっ、何ですってぇぇ!」
もう、何なのよ。人で無くする薬、お次は奴婢?
「また耶万か。」
雲井神の使わしめ、ゴロゴロ。尾をペシペシッ。
「張っていた、というコトは。」
「ウスウスそうでは、と。」
キラとコン。見合って、頷く。
掟を破ったのだから、裁かれるのは当たり前。しかも、破ったのは法。
霧雲山。山守社と祝辺が、ツベコベ言わせず引っ捕らえ、打ち込むわ。獄へ。
隠の世を通ったのなら、死ぬわね。
飯田の国長。許されない、決して。ケチョンケチョンに貶して、追い詰めて。死にたくなっても、死ねないの。
人として死んでも、魂は残るから。その魂に刻むのよ。生まれた事を悔いるような、アレやコレを。
「霧雲山からは、何も。だから待て? 嫌よ。」
きっと深く傷ついて、壊れているわ。
女はね、好いた人と触れ合いたいの。知らない男になんか、触れさせない! なのに、それなのに穢された。娘さんに、幼子まで。
手遅れかも、しれない。
心は一度、壊れたら終わり。戻れない。ずっと、ずっと引き摺るの。
言の葉が、見つからない。何て言っても、足りないの。そんな事を繰り返し、繰り返し。
許せない! 女の敵。滅びてしまえ! チョン切って獣谷へ。って、隠の守がもう。
「飯田の社の司が、力を使いました。しかし、分からない事が多く。」
「そうですか。」
良村は、戦に備えて動いている。
幾ら戦い慣れていても、ね。耶万には薬が、人を人で無くする毒が有る。アレで変わった人で無し、それも多く。
良村の長が飯田を訪れたのは、頼むため。きっと祝を頼るわ。飯田の祝には、土の声が聞こえるもの。
頼むために訪れた飯田で、襲われた。社の司を守るために、戦った。殺す気で迫る男を捌いた。それだけ。