7-84 何を考えている
死んだ長や倅の家から、救い出された人たち。
四人の娘はボロボロ。『死にたい』とか、『殺して』としか言わない。
子は九人。こちらも酷い。骨が浮き、目はギョロギョロ。ガリガリに痩せて、フラフラ。
六人の男の子は、娘に尽くすため。三人の女の子は、弄ぶために連れてこられた。南へ戻しても、幸せになれない。
稲を育てるようになり、豊かになった。山を駆けまわったり、歩き回らなくても、食べ物が手に入る。豊かになったのに、幸せに暮らせるのに、戦が始まった。
山奥で暮らす人は皆、南から逃げて来た。その子たちが、残された里や村で、幸せに暮らしている。
神成山、霧雲山、畏れ山の統べる地では、奴婢を認めない。決して、許さない。背けば必ず、裁かれる。
神成山の統べる地では、渦風社。霧雲山の統べる地では、山守社と祝辺。畏れ山の統べる地では、火炎社が裁く。
「シゲ。南の人と、話してくれないか?」
「話すのは良いが、何を。」
「どこの生まれで、どこから来たのか。」
「娘は、話せないんだろう?」
「見て、それで・・・・・・。」
「あのな、カタ。オレが分かるのは、山の人。海の人は、聞いて知っているだけ。」
死んだ長や倅の家では無く、離れに入れられていた。家では無く、小さな倉。
食べ物を蓄える倉に、人を。何を考えている! 倉じゃ火を使えない。しかも古くて、下から風が。
良く見ると、足の指が赤く腫れている。痒くて掻いたんだな。皹が入って、捲れて血が。
洗って薬を。その前に、何か食べさせて。
「ここじゃ気の毒だ。あの家、誰も住んでナイんだろう?」
シゲが、長の家を指す。
「その、嫌がるんだ。火を熾して暖めたんだが、『暗い』って、ここへ。」
真っ暗な所で耐えて。だから嫌がる、怖がる。
「どうするんだい? 釜戸山は、違うか。」
「乱雲山。雲井社へ、使いを出した。飯田神の仰せで、ヒオさまが。」
「そうか、急ぐな。」
「あぁ。頼む。」
先ず、娘。
足首に布が結んであるのは、采。首飾りを握りしめているのは、加津。縮れ毛の娘は、光江だろう。肌が少し、浅黒い。掌に石を乗せている娘は、千砂かな。
千砂は大磯川沿いにあった国。風見と結んでいたが裏切られ、耶万に滅ぼされた。
子が生まれると直ぐ、父親が河原へ行き、初めに目についた石を持ち帰る。それを守り石として、持ち歩く。そう聞いた。
続いて、子。女の子は皆、采。男の子は三人、采。足首に布が結んである。
一人は、会岐。子が生まれてから狩られた獣の皮で、親が守り袋を作り、子に。それを腰に下げるんだ。
もう一人は、伊東。男も女も、鷹の羽を髪に挿す。残り一人は、分からない。何か持ってりゃなぁ。
「大石だ。オレは、大石の子。耶万を滅ぼす、殺す。殺して、姉チャンと妹を助ける。」
「名は?」
カタが問う。
「無い。」
答える気が無いのか、名が無いのか。




