3-12 懺悔
早稲の村の外れの家には、タツ、早稲の村の長、その倅が転がっていた。口には布をかませ、首の後ろで縛ってある。おまけに大きな丸太に括りつけられていた。
三人とも、ガタガタと震え、何かを言っている。カズは不届き者と言っていた。と、いうことは。
「タツ、やっぱり、オマエだったのか!オレの子を、あんな惨いっ、あんな、あんなっ。」
ヨシが涙を流し、震えながら、絞り出すように言った。そう、ヨシは見たのだ。我が子の、変わり果てた姿を。
六つになったばかりだった。二つ違いの兄にくっついて離れない、甘えん坊。どんなに痛かったろう。どんなに怖かったろう。
あの時、森へ連れて行かなければ。あの時、離れなければ。あの時、あの時、あの時、あの時。
「タツは、認めました。草谷のヒデの子、日吉のゴウの子、茅野のヨシの子を手にかけたと。それに、コウを攫うつもりだったと。オレはその子を見ていないので、わかりません。でも、奥で休んでいるシゲが、稲田のジロの孫じゃないかと。」
そうか。あの子たちも殺したのか、この男は。そのうえ、ジロの孫まで狙っていたのか。コウは逃げられたんだな。良かった。生きているんだな。そうか。オレの子は、タツは・・・・・・。
ヨシの眉間に、深い、深い皺が寄った。思い出してしまう、あの血溜まりを。どうしても思い出してしまう。ガランとした、あの・・・・・・。
よく笑う子だった。まっすぐで、賢い子だった。あの子は、タツはもう、戻ってこない。
「早稲の村長と、その倅ジン。タツが子を攫い、連れ帰るように仕向けたと。他にも、美しい娘がいる村を調べさせ、欲しがる村へ売り渡していたと、はっきり言いました。ここにいる村長の母、フウ。ノリ、コタ、コノ、カズが聞きました。嘘ではないと誓います。」
そうか。腐りきっていたのか、この村は。釜戸山では、人は殺さない。そう決まっている。そう、殺さない。殺さないが、死なせないわけではない。
この男たちの罪は重い。死をもって償わせる。死んだ子のためにも、残された者のためにも、生かしておけない。
「この罪人を、釜戸山へ連れて行く。」
釜戸山の守り長が言った。三人の罪人は項垂れた。
早稲の村は、いつから腐り始めたのか。狩り人の間では、昔から良い話を聞かない。この、村はずれに暮らす人たちは、早稲の村に狂わされた。何と罪深い村なんだ、早稲は!
「今から釜戸山へ戻るのは、難しく、危ないと思います。こちらで一夜、宿をお借りしたいのですが。」
「はい。どうぞ、お寛ぎ下さい。」
早稲の村が良い村だったなら。きっと、後ろ暗いものを背負うことも、隠すこともなく、生きられたろうに。この若者たちの親も、悔しかったろう。あの時、こうすれば、あの時、こうしていればと。オレのように、何度も、何度も。
つつましいが、心をこめて作られた夕餉をいただいた。きっと、幼いうちに親と離され、生きるために何でもしてきたんだろう。それでも、思いやりがあり、行き届いている。
タツも生きていれば・・・・・・。タツよ、父を許しておくれ。まだ幼い、六つになったばかりのお前を、父は守れなかった。守ってやれなかった。
その夜、ヨシは夢を見た。タツが大きく育ち、狩り人として生きている。好きな娘と契り、孫が生まれた。タツそっくりの、よく笑う嬰児。
あやしながら見た空は高く、美しい雲が流れていた。そうだ、タツは空を見るのが好きだった。
タツが笑っている。
「父さん。」
手を振っている。
タツ、タツ。おれの子になってくれて、生まれてきてくれて、ありがとう。




