7-82 オレは悪く無い
祝の力は、誰にでも授かる物ではナイ。人を、村を守るため。神に御仕え出来る、選ばれた人。祝人も祝女も、人のため皆のために尽くし、良くしてくれる。
社の司は神事、社の纏め、仕え人の纏めを行う、人の長。村や国の長は、他でも務まる。しかし人の長は、社の司にしか務まらぬ。
そんな御人を、お守りくださった。
誰が責める、誰が責められる。誰も責めぬ、誰も責められぬ。良村の長が、飯田に居らなんだら? 社の司は死んでいた。そこに転がってるのに、殺されていた。
「ボク。長を降りろ。務まらぬわ、引け。」
「こんっの、クソババァ!」
ベダッ。
「はっ、放せぇぇ。」
シゲに縛られ、動けない。
コイツは人殺しだ。オマエも、オマエも、オマエも。親を兄を縁の者を、あの戦で殺された!
コイツが殺した、コイツらが殺した。良村のは人殺し。殺して、殺して、殺し続けた。
犬も人殺しだ。
見ろ! 首を掻っ切られ、苦しみながら死んだ。見ろ! あの顔を。見ろ! 血塗れだ。オマエも殺されるぞ。良村の人に、犬に。
「黙れ! 戦を仕掛けたのは、飯田だ。」
「嫌だったのに。」
「仕掛けたから、負けた。」
「助けを求めれば、良かったのに。」
「仕掛けず、話し合えば。」
「なのに、長が仕掛けた。」
「倅も仕掛けた。」
「攻められたから、守った。」
「攻められたから、戦った。」
「何もしなけりゃ、傷つけない。」
「良村は悪くない。」
「悪いのは飯田だ!」
「骸を、葬ってくれた。」
「墓を作ってくれた。」
「今も花を供えて、手を合わせ。」
「山裾に、いつでも参れる墓を。」
「舟で行けるように、整えてくれた。」
「うっ、煩い。黙れ、黙れ、黙れぇぇ! ンゴッ。」
石を投げられた。村人に、飯田の人に。
「やっ、止めろ。いっ痛い。やっ。」
飯田には、年寄りが多い。若者が少ない。子の多くは、親を失った。
縁の者に、引き取られた子。親無しで、社に引き取られた子。中には、言の葉が出ない子も。
山裾の地に、戦で死んだ者が葬られた。そう聞いて、駆け出した。
居ても立ってもイラレナイ。話し合って決めた。釣り人に『舟を出して』と、頼み込む。
老いて衰えた己を励まし、翳む目をカッと開き、参った。どのように死んだのか、まったく分からない。知りたくも無い。
戦で死んだんだ。痛かっただろう、辛かっただろう。寒かっただろう、怖かっただろう。
恐ろしくて足が竦み、血を流して死んだんだ。あの雪の中、真っ赤な血が飛び散って。それで、それで・・・・・・。
墓は大きく、直ぐ分かった。山の中なのに、開けていた。
木を切って、埋めてくれたんだ。大きな穴を掘って、放り込んだんじゃナイ。ひとり一人、葬ってくれた。見れば判る。丸くない。
「返せ。死んだモン残らず、返せ!」
大婆さまが叫ぶ。
「お、オレは悪く無いぃっ!」