7-81 正当防衛
そりゃ、壊れるよ。顔が腫れてた。手にも足にも、縛った跡が。
言ったんだ。『殺して』って。言ったんだ。『死なせて』って。言ったんだ・・・・・・。
「葬ったのか。」
シゲの声は、ずっと低いまま。
「あぁ。加津だけじゃ足りなくて、千砂とか会岐とか。他のに、手伝わせた。」
「なぜ、ここに? 敵を追って、来たのか。」
カタが問う。
「いいや、餌を取りに来た。前の国長がな、耶万のに言ったんだ。『ハナって娘が、とてもイイ』って。」
「なっ!」
カタが叫び、詰め寄る。
「渡さんぞ! 決して、誰にも。」
「落ち着け、カタ。コイツが言っているだけ。耶万が取りに来たんじゃ無い。」
「来るぜ。兵を連れて、ワンサとな。」
敗れた男は十、この地の者では無い。見慣れない剣、見慣れない飾り。南から来たに、違い無い。
シゲが、調べる前に縛った。という事は、見抜いていた。
下見に来た、奪いに来た、調べに来た。飯田の村は西川に近い。鮎川から西山に入り、備えた。整い、飯田に来た。
だとすると東山社、いや国長に使いを。西山は小さいが、険しい。狩り人の少ない飯田では、山狩り出来ない。
茅野にも使いは出すが、山狩りは頼めない。飯田の村は、狩り人が少ない。地が震える前には、それなりに居た。しかし戦で、ほとんど死んだ。
茅野の狩り人が離れれば、飯田はガラ空き。守れない。連れて行くのは、飯田の狩り人だけで良い。
「いました、見つかりました!」
祝人が一人、走って戻った。
「どこから、幾人。」
カタが問う。
「南から。娘、四人。男の子、六人。女の子、三人。男は十、来たそうです。」
知らせに戻った祝人が、ヘナヘナと座り込んだ。
転がっているのも、十。皆、南の男だろう。剣を手に、叫びながら襲って来た。脅しでは無く、殺す気だった。犬を見ても、怯まなかった。
首に布を巻いている犬なんて、良村だけ。犬を見れば、早稲の生き残りだと気付く。そう聞いた。なのに躊躇わず、向かって来た。というコトは、知らずに?
人を殺す。許されない、重い罪だ。しかし身を守るため、誰かを守るためなら、認められている。この度は、どちらも。
シゲは身を守るため、私を守るために戦った。シゲコは飼い主を守るため、戦った。証、見た人、聞いた人。全て揃っている。
「何て事だ。」
「信じられない。」
「奴婢なんて。」
「酷い話だ。」
集まった村の人たちが、口口に。
「う、煩ぁぁい!」
ボクが叫ぶ。
「奴婢が何だ、殺してない。責めるなら良村を責めろ。人殺しだ! 見ろ、死んでる。コイツが殺した。」
醜く口を歪め、シゲを指差す。
「良村の長は戦った。社の司を、守るために。」
飯田の大婆さまが、静かに言った。