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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
耶万編
437/1582

7-80 奴婢


「チェッ。」


少し離れて、こちらをうかがっていた男が一人。舌打ちして、背を向けた。シゲは静かに、縄を取る。ススッと歩き、男の前へ。


「なぁ。アンタ、加津かづだろう。」


「はぁ?」


「ソレ、その飾り。貝だよな。」


シゲが、首飾りを指差す。



「だったら何だ。昔、森で拾ったんだ。」


「違うな。」


サッと縄で縛り、ふところを探る。



「これも、拾ったのか?」


貝は違うが、同じ首飾り。




加津。南の地にある、耶万やまに滅ぼされた国。



子が生まれると直ぐ、父親が港へ走る。


初めに目についた貝を持ち帰り、嬰児みどりごひたいに当て、心から願う。強く、大きく育つように。それから母親が、首飾りを作る。



加津の者は皆、貝で作った首飾りを、お守りとして身に着けている。


死ねば、むくろと共に葬る。だから一人に、一つ。二つ持って歩く事は無い。そんな事をするのは、敵討かたきうちを誓う時だけ。






「誰だ。誰を奪われた。なぜ、北に居る。」


シンとコノを除く、良村よいむらの大人は皆、知っている。耶万に滅ぼされた国。風見かぜみに滅ぼされた、村や国。その人たちが、どんなか。


「何の事だ。」


「誰のかたきを討つのか、聞いている。」


コイツ、なぜ。




良村って、バケモノが言っていた。北の村だろう? 狩り人だ。犬を飼っていても、おかしくない。



耶万は違う。逃げられない。なら、風見か。いや違う。あの国からも、逃げられない。早稲わさは、有り得ない。


一度ひとたび、逃げ込めば終わり。き使われ、戦場いくさばで死ぬ。逃げ出しても、直ぐに捕まる。強いからな、余所よその人は。



「耶万に滅ぼされたのは、ずっと前。だから、親は違う。となれば妹、・・・・・・思い人か。」


クワッと目を剥いた。


「そうか、思い人か。」


「あぁ、そうだ。負けて奴婢ぬひになった。売られると思ったら、耶万にな。」






酷いモンさ。食い物も水も、少ししか貰えない。娘は穢され、子は。


壊れた娘のために、尽くすんだ。股を洗って、頭から水を掛ける。乾いた布で拭いて、休ませる。



食わねぇんだ。『死にたい』『殺して』ってな。それしか言わない。


口を開けさせて、さじで突っ込む。口を塞いで、上を向かせる。そうしなきゃ、飲み込まない。



子のウチは良かった。殴られたり、蹴られたけどな。娘に尽くして、生きられた。


十二になって、直ぐさ。言わなくても、解るだろう? ・・・・・・引き摺るように、連れてかれた。




食って掛かった。取られて堪るか! けど、取られたよ。


ボコボコに殴られて、蹴られて、動けなくなった。でさ、聞こえた。泣き叫ぶ声が。『やめて』『いやぁぁ』って。




朝まで続いたよ。取っ換え引っ換え、されたんだ。



オレは這って、外へ出た。助けようとした。


穢されたのは、知っている。あの声、違い無い。でも、それでも。あちこち痛くて、立てなかった。それでも・・・・・・。



朝が来る前に、辿り着いた。そしたらさ、ワラワラ出てきた。


ケラケラ笑いながら、『スッキリした』って。カラカラ笑いながら、『ナカナカ良かった』って。


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