7-79 ダメだこりゃ
霧雲山の統べる地において、人の売り買いは決して、許されない。認められない。それは神成山、畏れ山でも同じ。この地に、奴婢は居ない。
なのに有ると。居るのでは無く、有ると。
南から、逃げて来たのでは無い。南から、連れてこられた。飯田の国では無く、飯田の村に。
「ボク。偽らず、真を話せ。奴婢は、どこだ。」
カタが問う。
「ウッ。ぐっる、じぃ。」
小型化しても、大蛇の拷問は続いている。
「オロチ様。」
「フム。」
シゲに頼まれ、解いた。
はっ、ハハ。ヨシ、逃げよう。
奴婢だから買った。何が悪い。好きに出来る女を置くのは、男の夢だ。父も兄も皆、囲っていた。オレは国長、だから許される!
南の女は良い。特に采女。見た目もアレも、オレ好み。アッチに秀でているからな、采のは。
光江もイイ。じゃじゃ馬を乗り熟してこそ、男というモノ。フフッ。思い出したダケで、ムクムクと。
「ハァァ、オマエってヤツは・・・・・・。アレの倅だからな。」
カタには、心の声が聞こえる。
「しっ。何の事だ。」
今、『しまった』って。言おうとした?
「なぁカタ。死んだ長や倅の家、調べたか?」
シゲが問う。
「そうか! 離れや狩屋は調べたが、ヤツらの。」
飯田の村では、長や倅は悪者。
ボクは気が弱く、長の器では無い。しかしオドオドしながら、『戦の無い国にする、して見せる』と言い切った。それを信じて長にしたが、やはり・・・・・・。
飯田の村人は思った。コイツ捨てよう。飯田の国長は、茅野の長に。
茅野にはヨシが居る。あの狩頭なら、しっかり務められる。だから茅野の長を、飯田の国長に!
「禰宜、祝人を集めてくれ。死んだ長と、倅の家を調べる。」
社の陰に隠れて、こちらを窺っていた禰宜を見つけ、カタ。
「ハイッ。」
禰宜が飛び上がって、駆け出した。
見つからナイとでも、思った?
血で汚れたシゲコの口を、湿らせた布で拭う。撫でて褒めてから、水を飲ませていた。
「シゲ。」
「はい、オロチ様。」
シゲの隣でシゲコ、お座り。
「カタと共に残れ。シゲコは、ハナを。」
「ワン。」 ワカリマシタ。
スッと立ち上がり、カタの家へ。
飯田の人は誰も、手を出さない。出せない。人でも犬でも、何でも。良村ってダケで、遠巻きに見る。
ハナは違う。飯田の村で生まれ、育った娘だ。女たちが目を光らせる。良くして貰った、祝人の娘。死んだ親に代わって、守らねばと。
カタの家は、社の近く。社から男が出れば、手薄に。
ハナは恐れる。幼子でも嬰児でも、男と判ればガタガタ震え、涙を流す。だから社に男が戻るまで、シゲコに見張らせ、守らせる。
シゲコが寝そべっていれば、誰も近づかない。良村の生き物だから。
そうじゃ無くても、シゲコは強い。戦場では一匹で、十人殺す。それが早稲の犬。良村の犬になったが、他は変わらない。