7-77 大蛇、激おこ
「ハナはオレと、飯田の長と契るんだ。」
ボクは死んだイチの、二つ離れた兄。
「何を言う。許すワケ、無いだろう。」
ハナを傷つけたのは、ボクの父と兄なのだ。
「オマエには、関わりの無い話だ。」
「先から、何を言っている。私は、ハナの親だ。」
血の繋がりは無いが、引き取った。釜戸社から、許しを得ている。
「どけ! カタ。」
モチロン退かない、通すモンか!
「ハナ。ここから出ては、いけないよ。良いね。」
シゲに言われ、コクンと頷く。
「また来るよ。」
ハナの頭を、優しく撫でた。それからユックリ立ち上がり、外へ。
「騒ぐな。話なら、社で聞こう。」
そう言って、家から遠ざけた。
「いや、ココで。」
「ヴゥゥゥ。」 サカラウナ。
コイツ、嫌い。長? 笑わせるな! 長ってのは、里や村を守る、強くて優しい人が務めるんだ。オマエには守れない、長の器じゃ無い。
「なっ、シッシ。」
「ヴゥ、ワンッ!」 ナニスンダ、カッキルゾ!
女や子を虐めるヤツは、許さない。言の葉は出ても話せないってコトは、酷い扱いを受けたんだ。死にたくなるような事、されたんだ。
「来い、ボク。」
シゲの声が、低くなった。長の目から、狩り人の目に変わった。
「ヒッ。わ、分かった。」
社の近くまで、ザッザッと歩く。カタの家を出てから、目つきの悪い男がゾロゾロ、付いて来る。嫌ぁな感じが、ビシビシ伝わる。
「カタ、オレから離れるな。シゲコ、後ろを頼む。」
「ゥワン。」 ワカリマシタ。
控え目に吠え、キリリ。シゲの隣を歩いていたシゲコが、ゆっくりシゲの後ろへ。
「ヤッチマエェェ!」
ボクが叫んだ。
「ヲォォォォ。」
男たちが剣を手に、襲い掛かる。
ガキンッ、ドサッ。ガキンッ、ボキ。ガキンッ、ヒュゥゥゥポトッ。
シゲは狩り人。狩りでも戦でも、負け知らず。良村の人は戦い慣れているが、シゲの強さは桁違い。
シゲコも強い。幾度も戦に出て、生き残った一匹。四匹の中で最も、戦に出ている。なのに傷一つ、負わなかった。
「良村の生き物に、手を出すな。」
ブワブワッと靄が出て、赤目の白蛇が現れた。
「グッ、グルジイ・・・・・・。」
バタバタと、男たちが倒れる。
「良く聞け、人よ。我は隠神、大蛇。愛し子が良村で、幸せに暮らして居る。よって、良村の生き物を傷つける事は、我が許さぬ。」
大蛇は幾万もの長い時を生き、隠神のトップに君臨する蛇神。ティラノサウルスより、大きい。
建物を潰してしまうので、透けている。しかし、その姿。見えない人にも、ハッキリ見える。見せている。