7-74 ウキウキ、ルンルン
「いてきまぁす。」
舟からマルが、ブンブン手を振る。
「いってらっしゃぁい。」
手を振り返す、良村の良い子たち。
隠の世へはチョクチョク出掛けるが、良山からは殆ど出ない。歩いて行くのも楽しいが、マルは舟に乗るのが大好き。
ワクワクが止まらない。
舟寄せから、スゥッと下る。山裾を出て、暫く進むと鮎川。光を受けて、キラキラ。マルの瞳も、輝いている。少し下れば、茅野の舟寄せだ。
「さぁ、着いた。」
慣れた手付きで、縄を引っ掛ける。舟を降り、舳をグイッ。
「おいで、マル。」
「はいっ。」
優しく、舟から降ろされた。マルコはピョンと飛び降り、マルの元へ。シゲコも、ピョン。
「おはよう、長。」
茅野の禰宜が、お出迎え。
「おはようございます。ネネさん。」
「その子は?」
仔犬を連れた、蛇憑き。良村の子、となると?
「はじめ、まして。マルですっ。この仔は、マルコ。」
「キャン。」 ヨロシク。
祝の力を感じる。守り、かな?
「はじめまして。マル、マルコ。」
ネネは祝女。父から禰宜を継いで、三年。弱いが、守りの力を持つ。
茅野には、力の弱い人が多い。弱いのだが、祝の力を持って生まれる子は、驚くほど多い。
「とってもフワフワ。うちゅくしいっ、力。れすね。」
ニコッ。
「えっ?」
茅野の人は、誰も知らない。弱いが、質の良い力だと。
「久しいな、マル。」
「お久し、ぶりですっ。ヤノさま。」
茅野神の使わしめ、ヤノ。ポンッと人の姿に化け、ニッコリ。
「いてらっさぁぁいっ!」
マルはシゲの姿が見えなくなるまで、手を振って見送った。
「行こうか、マル。」
大蛇に声を掛けられ、ニコッ。
「はいっ。」
とっても良い、お返事。
楽しそうに歩くマルを見守り、ニコニコ。そんな大蛇に、申し訳なさそうにヤノが切り出す。
「蛇神、お気づきですか?」
「あぁ、濃いな。何があった。」
飯田。飯田の村と茅野の村が、一つになって出来た国。国の長は、飯田の長が務める。
イチの父兄は、戦を仕掛けた罪で裁かれ、釜戸山で死んだ。生き残ったのは末の兄、ボクだけ。
占いで何でも決めようとする、困った男である。名は体を表す?
長の器では無い。しかし他に任せられる人は、一人も。となれば荒れる。茅野の長に任せよう。いや、飯田の国を治めるのは、飯田の長だ。とまぁ、困った事に。
これから、どうなる。このままでは、いつか。そんな思いが闇を引き寄せ、渦巻いた。
飯田社にも、祝がいる。社の司、カタの甥。大いなる地の声が聞こえる、祝人。
飯田神、使わしめヒオも、後見に。皆の間に立って、何とかしようと努めるが、どうにも困った事に。